邂逅
杓条甲真は荒れていた。らしくもないことをしてしまった自分に腹を立てていた。
「ちっ!、なんで俺があんなガキ気にしなきゃなんねーんだ、クソッタレ!!」
一人で缶ビールをあおりながら公園のベンチでクダを巻いていた。辻堂緋翔が遺棄されたアパートに侵入した後で警察に通報してしまったことを悔やんでいたのだ。本来の自分ならそんなことをする筈がないと彼は考えていた。
それなのに実際にはそうしてしまった。確かに初めてそんな現場に出くわして動揺してしまったのはあっただろうが、それにしても、である。
そんな彼の頭の中には、幼い頃の自分の姿が浮かんでいた。同時に、自分にロクに食事も与えず蔑ろにした両親の姿も。
彼の両親はまだ健在で、二人揃って精神科に通院しながら生活保護を受けて生活している。しかも、実際には詐病で、精神科で処方された薬を横流しして小銭を稼ぐという、どうしようもない人間だった。
実は何度か両親の家にも忍び込んで空き巣を働いたりもしたのだが、両親はそれを警察に届けると自分達のことも探られるかもしれないと考え、黙っていた。杓条甲真にとっては好都合だったが、それがまた癇に障る。何度か両親のことを役所に密告もしたが調査が甘いのかいまだにそのままだ。何かガツンと食らわしてやりたいとも思っていた。
だが、神か仏か悪魔かいずれの所業かは分からないが、彼にはまだ役目があったようだ。
不貞腐れてベンチに背を預けている彼の前を、いかにも真っ当な生き方はしてきてませんというのを絵に描いたようなスレた女の肩を抱いた三十過ぎくらいの男が通り過ぎた。その男は女に対し、どこが自慢気な口ぶりで、
「実はよう、俺が捨ててきたガキが警察に見付かっちまってよ。しかも死んでてくれりゃ良かったのに生きてやがったんだ。だから警察に見付かる前にまたずらからなきゃいけねえ。
まったく、どこまでも俺の足を引っ張りやがる。さすがはあのクソ女のガキだと思ったね」
などと話ながら。
それが耳に入った瞬間、杓条甲真の頭にひらめいたものがあった。
『こいつ…! あのガキの親父か……!?』
何という巡りあわせか。普通なら出会う筈のない者同士がこうして邂逅してしまった。そして彼は、またも、いつもなら決してやらないことをやってしまった。余計な揉め事を起こして<仕事>に差し障ったらいけないと他人に絡んだりなどしないようにしていたというのに、酒が入っていて判断力が低下していたのか、足元に落ちていた石を拾うと殆ど無意識のうちに男目掛けてそれを投げつけていた。
だが、彼はキャッチボールの経験すら覚えがないくらいだったこともあり、狙いは外れ、女の後頭部に石は命中してしまったのだった。
「な、なにすんじゃわりゃあっっ!!」




