戸野上威
宿角蓮華は憤慨していた。父親に遺棄されアパートの部屋で餓死寸前だったという辻堂緋翔の保護を引き受けたのだが、彼を遺棄した父親の辻堂寧人に対して怒っているのだ。
彼女は、人の命を蔑ろにする者、特に子供の命を蔑ろにする者に対しては非常に厳しかった。しかも、ただ憤慨するだけでなくて実際に行動を起こすのである。
そして今回も、辻堂緋翔を遺棄した辻堂寧人を探し出し法の裁きを受けさせるべく、保護責任者遺棄事件として捜査を開始した警察とは別に、戸野上探偵事務所に自費で捜索を依頼した。
「戸野上、絶対に見付けて頂戴。舐めた真似をした甘ったれのバカ親にはとことん思い知らせてあげなきゃいけないから」
とは言いつつも、別に<仕置き人>のように私刑を与える訳ではない。警察が見付けてくる証拠に加えてそちらでも証拠を集めそれを警察や検察に提供し、裁判で徹底的に追い詰める為にである。
「はいはい、分かってますよ。斉藤さんは刑事としてそいつを追い詰め、俺は探偵としてそいつをきっちり追い詰めてやりますよ」
戸野上探偵事務所所長、戸野上威は、パリッとしたスーツに身を包み髪型もしっかりと整えた、一見すると弁護士のようにも見える男だった。年齢は三十七。<もえぎ園>出身者であり、幼い頃から蓮華とは姉弟のように、蓮華の祖母や母に育てられた。ちなみに城北署少年課の刑事、斉藤敬三は二人より年上だが、同じように<もえぎ園>で育った。なお、仲元幸恵も一時期<もえぎ園>で保護されていた経験がある。
そういう縁もあり、それぞれがそれぞれの立場で子供の命を守る為に活動していた。
戸野上探偵事務所は、現在、常勤の探偵五人と、在宅でネット上の情報を集めることを専門とする職員三人で構成されていた。今回は警察も動いているので、警察がどうしても苦手としているネット上の情報集めを中心に捜索を行うことになった。
辻堂寧人が以前利用していたネット上のアカウントは既に特定されているので、それを基にネット捜索を専門とする職員がネット上を探り、必要とあらば彼らの<仲間>である、俗に<特定厨>と呼ばれるネット上の情報を紐付けすることに異様な熱意を見せる人間達の協力を受けて捜索するのだ。
彼らは、外の背景が写った写真の情報を分析しある種の人海戦術でそこに写り込んだものから住所まで特定してしまうという特技を持っていた。場合によっては、たとえそれが室内の景色であっても、写真の中の窓に映り込んだ景色さえからも住所を特定してしまったりもするのだった。




