過去と悔恨
『自分から選択肢を狭めてしまったの。それが、あなたへの罰』
銀條朱音にそう断じられて、新冊梨華は言葉を失っていた。
「……そんな、こと……!」
と辛うじて口にするが、後が続かない。そんな梨華に朱音はなおも言う。
「そんなことないって?。じゃあなぜあなたはそんなに悩んでるの?。彼氏にあなたの過去がバレたら駄目になりそうだけど、その過去を隠し通せる自信もないから悩んでるんでしょう?。
過去や秘密を墓場まで持っていけるタイプの人間はね、そんなことでは悩まないの。隠し通す自信があるんだから。でもあなたは違う。
それにね、『その秘密を知ってるのは自分だけじゃない』タイプの秘密なんて、どっからバレるか分からないのよ?。援助交際してたとか、風俗に勤めてたとか、AVに出てたとか、他にも知ってる人間がいる以上、バレる可能性は小さくないの。あなたはそれも心配してるんでしょう?。
そうやって弱みを抱えたまま付き合って、もし、あなたの秘密を知ってるのが現れて『バラされたくなきゃ言いなりになれ』とか脅されたらどうするの?。言いなりになるの?。安っぽいエロ漫画みたいに?」
「それは……」
「あなたは秘密を隠し通せるタイプじゃない。無理に隠そうとするとストレスが溜まっていつか爆発するタイプよ。そういうのはね、『相手の過去なんて知りたくない』っていうタイプとは合わないの。わきまえなさい」
「……」
反論すら思い付かず、梨華は泣いていた。唇を噛み締め、ボロボロと涙を流して。
その彼女の様子を見て、朱音の表情がフッと変わった。それまでの厳しいものではなくて、とても穏やかな柔らかいものに。
そして言った。
「梨華。あなたは間違ったことをした。愚かなことをした。それは事実。その所為でせっかくの幸せを掴みそこなうかもしれない。
でもね、男と付き合ったり、結婚したり、子供を持つことだけが幸せじゃないのよ。そうじゃない幸せだってこの世にはあるの。私の友人はいまだに独身だけど、幸せよ。
男と付き合って幸せになりたいのなら、あなたの過去も丸ごと受け止めてくれる男を見付けなさい。それが無理ならそんなのはとっとと諦めて、他に幸せを探しなさい。
愚痴をこぼしたくなったら、泣き言を並べたくなったら、また<銀朱荘>に来ればいいわ。私が聞いてあげる。あなたの気が済むまでね。
間違いを犯さない人間なんていない。あなたは自分の犯した間違いの所為でそんなにも苦しんでる。だったらそれはもう、十分な報いなのよ。
幸せになりなさい、梨華」




