嘘
『あなたと彼は合わないと思う』
新冊梨華に対してはっきりとそう告げた銀條朱音は、決定的なことを口にした。
「あなた、中学の頃に援助交際してたわね?」
「な…!? 何でそれを…!?」
誰にも話していない筈のそれを指摘されて、梨華の顔から血の気が引いていく。
だが、種を明かせば簡単な話だった。
「あなた、一度、補導されてるでしょ? 援助交際の相手が淫行で逮捕されて、携帯の着信履歴の中にあなたの名前があったことで。その時の補導歴が警察に残ってるのよ。私達はそういうのをちゃんと確認するの」
「な…な……!?」
言葉にならずに口をパクパクさせる梨華に、朱音はさらに言う。
「で、あなたはそのことを彼には話してない。だってそうよね。彼は自分が<二人目の彼氏>だと思っているもの。どうしてそんな嘘を?」
「……」
「彼がそういうのをすごく気にするタイプだからよね。なのにあなたはそれを隠して彼と付き合ってた。
だけどあなたは、私がこうしてちょっとカマかけるだけでそんなに顔に出る。とても隠し事を隠し通せるようなタイプじゃない。いつかきっと彼にもそれがバレてしまう。
もしバレなかったとしても、あなたはその嘘がいつバレるかとびくびくする毎日を送ることになるでしょうね。そしてあなたは、それに耐えられない」
「な…何、言ってんだよ……そんなこと、分からないだろ……」
「じゃあどうしてあなたは、DV被害を訴えておきながら彼のところに戻ろうとするの? あなたのDV被害の申告が本当なら、帰ろうなんて思わないでしょ? あなたはその場の思い付きで、別に本気で彼のDVを恐れてた訳でもないのにDV被害を訴えてやり過ごそうとした。だけどその嘘を吐き続けることができずに彼のところに戻ろうとしてる」
「……」
反論もできない梨華に、朱音は冷徹に言い放った。
「その嘘を吐き通せる自信がないのなら、万が一バレた時に開き直れないと思うのなら、その彼氏とは別れなさい」
「な…!?」
言葉を失った梨華に朱音はなおも言う。
「私はね、付き合ってる相手の過去を知りたくないとか、自分に都合のいい人でいてほしいとか望むこと自体が『甘え』だとしか思わないの。付き合ってる女性の過去を知った途端に手の平返すような男は大した男じゃないとしか思ってない。
でもね、そういうのが少なくないっていうのも現実なのよ。『相手の過去なんて知りたくない』って思うようなのはいくらでもいるの。
なのにあなたは、目先のはした金の為に自分の尊厳を売り払って、抱えなくてもいい過去を抱えて、人には言えないような秘密をわざわざ自分で作ったの。そんなあなたが、『相手の過去なんて知りたくない』って思ってるような男を捉まえて幸せになろうなんて、ムシが良すぎるのよ。自分から選択肢を狭めてしまったの。
それが、あなたへの罰」




