銀朱荘
<もえぎ園>は、十八歳の誕生月または高校卒業までは保護してくれるものの、それ以降については原則、保護の対象ではなかった。施設を管轄する役所との兼ね合いで、そこまでしか責任を負えないのである。
なので、もし、十八歳までに状況を打開できなかった場合には、協力関係にある別の民間施設に応援を頼むことになる。
それが、<銀朱荘>だった。
が、実は体裁上、NPO法人が運営する別の施設とはなっていながらも実体は<もえぎ園>の成人部門とでもいうべきもので、代表も別にいるものの、それは<もえぎ園>園長の宿角蓮華の代理人という意味合いもあった。
とは言え、そちらの代表の銀條朱音も、<もえぎ園>の出身者でありつつ、宿角蓮華の幼馴染でもあり、かつ負けず劣らずのクセ者で、その肝の座り具合は決して劣るものではなかった。
<銀朱荘>は、<もえぎ園>を卒園し、しかし家に帰ることもできず、かつ様々な事情で自立まで猶予が必要な者達の受け皿であると同時に、最近ではDV被害者の避難先という側面もあった。
そこに、生後三ヶ月の赤ん坊を連れた十八歳の少女が、同居する彼氏のDVから逃れて入所してきた。
少女の名は新冊梨華。高校を中退し、アルバイトをしている時に現在の彼氏と知り合って同棲を始めたが、生まれた子供が自分に似ていないという理由で彼が浮気を疑い、それをきっかけに暴力が始まったのだという。赤ん坊だけなら<もえぎ園>の管轄になるものの、今回はあくまで母親と一緒ということで、<銀朱荘>の方に振り分けられたということになる。
新冊梨華は、一見しただけでも今風の軽薄な若者という風体だった。赤いメッシュの入った金髪に、両耳だけでなく鼻にまでいくつものピアスを付け、濃い化粧と派手なシャツに真っ赤なミニスカートと、まあ、およそ子供のいる母親とは思えない格好と言えるだろう。
とは言え、そんな恰好をしていてもDV被害者であることには変わりなく、避難中の住まいとして非公表で用意された小さな借家に、パッと見はどこにでもいる普通の中年女性という印象の銀條朱音に連れられて赤ん坊と共にやってきたのだった。
「ま、ここが当面の家になるわ。古いし小さいけど、うちもあんまり資金繰りが潤沢じゃないから勘弁してね。ただ、リフォームはされてるから中は綺麗だし、お風呂は自動でトイレも温水洗浄便座付き。赤ちゃんがいるということでベビーベッドとミルク用ポット、それから粉ミルク十缶に紙おむつ十パックも用意させてもらってるから、これで当面は何とかなるでしょ」




