表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/282

不公平

突然現れた刑事と弁護士に、守縫恵人(かみぬいけいと)の顔がみるみると青褪めていくのが分かった。


これは、遠からずこうなるだろうということを予測した宿角蓮華(すくすみれんげ)が仕組んだことだった。


この斉藤という刑事も一条という弁護士も、実は<もえぎ園>の出身者である。言いがかりをつけたりしつこく暴言を吐いて業務を妨害する保護者などに対して毅然とした対応をする為に協力してもらっていたのだ。


しかし本当は、ここまでの他愛ないやり取りで思い直してもらいたいと思っていた。そうすればここまでするつもりはなかった。それなのに守縫恵人(かみぬいけいと)はここまでにも『LGBTは異常者』『自然に反した欠陥品』などという発言を繰り返し、まるで折り合う様子を見せなかったのである。


そして今回の、『子供が産めなきゃ女じゃない』発言。


事ここに至って、とうとう蓮華の堪忍袋の緒が切れてしまったという訳だ。


もっともそれすら、厳密に言うと<演技>だったが。


強く叱責されたことで圧倒されて引いてくれるならまだ穏便に済ませることもできた。それなのに守縫恵人(かみぬいけいと)はさらに逆上し、ついに決定的な言葉、


『こんなとこぶっ潰してやるよ!! 夜道とか気を付けるんだな!!』


という、完全な<脅迫>を口にしてしまったのである。ここまでもそれを匂わすような発言はしていたものの直接的なことは言わなかったのにも拘らず。


だから、それが<脅迫>であり法に触れる行為だというのを知ってもらう為に、最後の手段を取ったという訳だった。


軽々しく法を蔑ろにした振る舞いをする者は多いが、それはどこかで『このくらいなら大丈夫』と思っているからだろう。


しかし、ネズミ捕りでスピード違反が、飲酒検問で飲酒運転が検挙されるように、ただ単に事件化しなかったというだけで、本来は触法行為なのだ。たまたま表沙汰にならなかっただけである。


学校でのイジメも、それ自体が触法行為である場合が多い。いや、れっきとした<犯罪>だ。暴行、傷害、窃盗、恐喝、脅迫、強要等々、紛れもない犯罪行為が行われているにも拘らず、それを『大したことじゃない』と過小評価して、犯罪そのものを揉み消しているから、『このくらい』と犯罪が軽く見られるのではないのか?。


イジメを受けた者が、その数年後に加害者を訴えようとすると、『いつまでも昔のことを根に持って』とか、『いまさらそんなの警察が相手にする訳ないだろ』と言って、被害者を叩く風潮がある。


だがそれは、犯罪そのものを隠蔽する行為ではないのか? 時間さえ経てば許されるのならば、なぜ実際に事件化し逮捕され、<犯罪者のレッテルを押された人間>は、いつまで経っても許されないのか?


逮捕され、起訴され、判決が下って刑に服してもなお許されないのは何故なのか?


それに比べて、事件化しなかったイジメの加害者は、法の裁きも受けず、刑にも服さず、己の犯罪行為を何一つ償っても贖ってもいないのに、時間が経ったというだけで許されるのか? これを不公平と言わずして何と言うのか?


『警察沙汰にならなきゃ犯罪じゃないんですよ』


とでも言いたいのだろうか?


宿角蓮華はそうは捉えない。だから相手が未成年であろうとも容赦はしない。己の行為が犯罪であるということを、きちんと司法を通すことで理解してもらうのだ。


そして翻って、彼女自身が『子供の命を守る為』として行っている触法行為がいずれ白日の下に晒され罪に問われるのなら、それは甘んじて受ける覚悟は持っているのである。


『子供の命を守る為だから見逃されるべき』とは言わない。


何しろ、それを許していては、『子供の命を守る為』と言いつつ人身売買紛いの行為を行っている者達をも許すことになるからだ。


いつか、法に触れる行為をせずとも、法の監視の行き届かないところで命を失う子供達を救えるような仕組みが完成するのを待ちながら、彼女は今日も命の危険に曝されている子供を受け入れるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ