拒絶
「残念だけどあなたの言ってることは論理的ではないわね」
「出たよ、そう言って煙に巻こうっても無駄だからな」
「はいはい。それで?」
「だからお前らはバカだって言ってんじゃん!」
「だから?」
「ふざんけんな! まともに話もできないのかよ!?」
「ええ、だからあなたが何を言いたいのかを訊いてるのよ?」
「家族のことは家族で解決するからお前らは余計なことすんなって言ってんだよ!」
「だからそれはさっきも言ったとおり、久人さんからの保護要請があった時点でもう<家族の問題>ではなくなってるの」
「そんなもん無効に決まってるだろうが! こっちは家族だぞ!? お前ら他人が何の権利があって勝手なことしてんだよ!?」
「権利の問題じゃないわね。これはむしろ義務。保護要請が出たら応えるのは私達の義務よ」
「そんな義務聞いたこともねーよ!」
「あなたが聞いたことなくても実際にはあるからどうしようもないわね」
「知るか!! とにかくこれは家庭の問題なんだよ!!」
「どうしてもって言うなら裁判でも何でも起こしてもらっていいわよ?」
「はあ!? なんでそんなことしなきゃんねーんだよ!? こっちは家族を拉致監禁されてんだぞ!?」
「そう思うんでしたら警察へ行ったら? これが拉致監禁だったらすぐに動いてくれるわよ?」
等々。
守縫恵人がいくらすごもうとも声を荒げようとも、宿角蓮華は意にも介さなかった。
当然だ。彼の言ってることは支離滅裂で、それこそ何の根拠もない戯言に過ぎないのだから。
職員が出した茶を口に含み、蓮華は「ふう…」と面倒臭そうに溜息を吐いた。
「とにかく。あなたが何を言っても、こちらは何一つ譲歩することはありません。あなたの家に久人さんを返すことは、今のあなたの態度を見ていても、やはり適切ではないと判断するしかありません。
どうぞお引き取りください」
どうやら話し合いができる相手ではないと蓮華は判断し、敢えて丁寧な言葉遣いで冷淡にそう言い放った。真っ直ぐに恵人を見詰めるその目は、氷のように冷たかった。
「ふざけんな! あいつを返すまで俺はここを動かねーぞ!!」
そう怒鳴りながら、恵人はガン!とテーブルを叩く。しかし蓮華の表情はピクリとも動かない。<絶対の拒絶>がそこには表れていた。
「だからそれはできないと言ってるんです。
これ以上居座って私達の業務を妨げるのでしたら、威力業務妨害として警察に訴えますよ?」
と言いながら蓮華はスマホを出した。
それを見た恵人は、「話になんねぇ!」と吐き捨てて、事務所のドアを乱暴に開けて出て行ったのだった。




