問い掛け
「あ、いや、あの…その……!」
自分が赤ん坊の頃におむつ替えをしてもらって全部見られてるということで、千堂京香は顔を真っ赤にさせていた。彼女が<もえぎ園>にいたのは赤ん坊の頃の数ヶ月だけなので、本人にその時の記憶はない。
「私はね、十三の頃からここで子供達の面倒を見てきてんの。おむつ替えなんてそれこそ百人以上やったわよ。いちいち気にしないの」
石田葵(仮)のお尻を綺麗に拭きあげて汚れたおむつを抜き取り、下に敷いていた新しいおむつをそのままつける。手慣れたものだった。百人以上のおむつを替えたというのは伊達ではないということだろう。
園長室内の流しで石鹸を使ってしっかりと肘まで洗い。それからすぐにミルクの用意を始める。
「これもやってもらうからね。ちゃんと見ておきなさいよ」
そう言いながら粉ミルクの缶を出し、熱湯消毒済みの哺乳瓶を出し、そこに粉ミルクを投入、ミルク用の保温機能付きのガラスポットの湯を注いで、やはり熱湯消毒済みの乳首を哺乳瓶に付けて振り、ミルクを溶かす。
それら一連の動作も慣れたもので全く無駄がなかった。姿は十歳くらいの少女にも見える宿角蓮華が行うので、違和感はとんでもないものがある。
しかし育児のベテランであることは疑いようもないだろう。
そう、彼女は園長でありながら決して職員に任せきりにせず、保護された子供達一人一人の世話を自分でも行うのだった。それは彼女の矜持でもある。
『自分で育てる』という。
「生まれなんてどうでもいいのよ。誰から生まれたなんてのもどうでもいい。
京香、あんたは養親のことを本当の親だと思ってる?」
唐突な質問だったが、それについては京香の答えは一つしかなかった。
「はい、思ってます」
続けて蓮華が問う。
「じゃあ、血縁上の親のことはどう思ってる?」
それに対しても京香は躊躇わなかった。
「言いたいことはいろいろありますけど、今はもうそんなに気にしてません。むしろ私のお父さんとお母さんの為に私を生んでくれたんだと感謝してます」
先程までの頬を染めて焦っていた京香の姿はどこにもなかった。蓮華を真っ直ぐに見詰め、自分の正直な気持ちを告げていた。
適温になったミルクをテーブルの上に置き、ベビーベッドの中でふやあふやあと泣く石田葵(仮)を抱き上げ、テーブル脇の椅子に座ってミルクを手に取り、口に含ませた蓮華が京香を見てニヤリと笑った。
「結構。あんたの養親選びは間違ってなかったってことね」