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石田葵(仮)

石田葵いしだあおい(仮)と名付けられたその赤ん坊は、ミルクをたくさん飲み、そしてたくさん眠った。その様子はとても堂々としていて、自分が生みの親から捨てられたなどという境遇をまるで感じさせなかった。


とは言え、赤ん坊だから泣く時は泣く。今も、宿角蓮華すくすみれんげ千堂京香せんどうきょうかが彼女の名前を付け終えるのを待っていたかのように、「ふ…、ふあ……」と身を捩って声を上げ始めたのだった。


「ん…、あら、やったのね」


ぐずり始めた石田葵(仮)の様子を見て、蓮華は鼻をスンスンと鳴らし、エアコンの設定温度を上げながらそう言った。


「え…?」と戸惑う京香には構わず、蓮華は自分の椅子のすぐ後ろに置いてあった新生児用の紙おむつと、お尻拭きを手に取ると、ベビーベッドと並んで置かれた踏み台に載り、躊躇うことなく石田葵(仮)のベビードレスの裾を捲り上げるとふわっと臭いが部屋に広がった。


「あ、ウンチ…?」


思わず声を漏らす京香に、蓮華は視線を向けることもなく言う。


「あんたにもやってもらうことになるんだから、よく見ておきなさいよ」


そう言いながら石田葵(仮)の体の下に新しい紙おむつを広げて敷くと、付けてあった方の紙おむつのテープを外し、開けた。すると確かにたっぷりと液状のウンチが広がっていたのだった。ただ、色が少し変な気がする。


「あ、あの、ウンチの色、なにか変じゃないですか?」


思わず問い掛けた京香に、蓮華はこともなげに返す。


「大丈夫よ。生まれたばかりの赤ん坊のウンチって緑っぽかったりするの。これなら問題ない。この子は健康よ」


お尻拭きを一枚手に取りそれを握り締めた後、ふやあ、ふやあ、と泣く石田葵(仮)のウンチ塗れのお尻を躊躇うことなく蓮華は拭いていった。汚れたお尻拭きは同じく汚れたおむつの上に置き、新しいお尻拭きを手にとってはそれを握ってからまた拭いた。


「お尻拭きが冷たいと余計に泣いたりするからね。こうして自分の体温で温めてから拭いたりすんのよ。まあ今は専用の保温器もあるからそれを使ってあらかじめ温めておいてもいいんだけどさ、でもそれも、保温器から出したらすぐに冷めるから、私はこうして一枚一枚自分で温めるけど」


などと解説しながらも、手慣れた様子で拭き上げていく。さらに、


「あと、男の子の場合はチンチンの裏側、女の子の場合は前の割れ目にもウンチが入り込んでることがあるから気を付けて。拭き残すと炎症起こしたりしてそれが不快で泣くこともあるからね」


とサラッと言う。しかし京香は『チンチン』や『割れ目』という言葉に思わず反応して頬を染めていた。しかし蓮華はそんな様子に目敏く気付き、諫めるように言ったのだった。


「なにを意識してんの。あんたがここにいた時に私はあんたのおむつも替えたのよ?。あんたのお尻の穴も割れ目の中も私は全部見てるの。そんなこと気にしてて赤ん坊の世話ができるとか思わないことね」



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