役童強馬
<七人殺しの役童>。
それは、今から四十年以上前、ある集落で起こった殺人事件の加害者に付けられたあだ名である。読んで字のごとく、その加害者、役童強馬は、八歳の子供を含む七人を次々と殺し、駆けつけた警官隊とも大立ち回りを繰り広げて十三名の重軽傷者を出しただけでなく、その後の裁判の席でも、
『俺を殺してみろ!! 今殺しておかなきゃここにいる全員とその家族も皆殺しにしてやる!!』
と吠えたという、狂気の連続殺人犯のことであった。
その説明をした後、宿角蓮華は語った。
「実はね、その役童強馬は私の遠縁の親戚にあたるのよ。と言っても、五代遡ってようやく繋がってくるような、ほぼ赤の他人なんだけどね。
でまあそれはいいんだけど、そいつが逮捕されてから、その子供を一時期うちで保護してたことがあったんだって。七人も殺した殺人犯の子ってことで世間からかなり攻撃されたらしくて、当時の園長だった私の祖母が保護を申し出たってことだって聞いたわ。
ただ、その後、母親が勝手に連れ出して行方をくらましてしまったそうだけどね。
でも、保護してた僅かの期間でその子の方は随分と精神的に安定したそうよ。不穏な気性を抱えてたけど、それを上手くコントロールする術を身に付けたっていうんでよっぽど印象に残ってたんでしょうね。私がこの園を継ぐ時に語ってくれたのよ。その時の詳細な経緯を」
「……」
「その子の父親だった役童強馬は、感情に任せて何人もの人間を素手で殺せるような人間だった。そんな父親の影響を少なからず受けた筈のその子も、大人しいけどその内側では不穏なものが渦巻いてるタイプだったって。
でもね、そんな人間でも自分を制御できるようになれば幸せにもなれるのよ。父親はそれを学ぶことができずに多くの人間を不幸にした上で死んだ。当時としても異例の速さで死刑判決が下って、執行も異例の速さで行われたって。
だけど、そんな父親の下に生まれた子は、今では二人の子を持つ父親になって、幸せに暮らしてるそうよ。奥さんを病気で亡くしたりとかっていう不幸もあったけど、それでもね。
京香。人間は、どんな環境や境遇に生まれようと、それを覆すことが可能なの。それは、生まれつきの性格でもそう。生まれついての殺人犯なんていない。そんなことを言うのは、そいつに関わった大人達の無作為を誤魔化す為の詭弁よ。そんな甘ったれしか周囲にいなかったから、そいつはそうなったってことよ」




