七人殺しの役童
ネットスラングとして使われる<コミュ障>は単に人間関係が苦手なことを差していると思われるが、宿角蓮華はそれを鼻で笑っていた。
『自分が挨拶一つ満足にできない言い訳に使ってるだけでしょ』と。
そして、様々な問題を抱えた者達と接してきた彼女の実感としては、明らかにコミュニケーション不全を起こしてる人間は、そもそも『相手の話を聞いていない』というのが顕著だと感じていた。
たとえば、口下手な人間が、相手の話を聞いた上で要件だけを短く端的に応えるのは、これはただ単に不器用で愛想が悪いだけで、コミュニケーションはちゃんととれているのだ。一方、コミュニケーションが取れない人間は、まず自分の結論ありきで相手の話自体をロクに聞いていないから頓珍漢な受け答えしかできないし、それで相手が不快そうな様子を見せると更に焦ってしまって自分でも何を話していいのか分からなくなるという負の連鎖が起こっているのだと見ていたのだった。
だから、とにかく相手が何を話しているのかをよく聞いて、必要なことを端的に応えることを子供達に学ばせた。
そうすると、性格的に元々明るくて人懐っこいタイプの子は自分から饒舌に相手に語り掛けたりもするが、やや人見知りな子は、必要なことだけを口にするという感じになった。だが、それでいい。最低限必要なコミュニケーションさえ取れれば後は他人ウケするかどうかの問題でしかない。無理に媚びる必要などないのだ。自分に媚を売らなければ評価しない相手など、別に構ってやる必要もない。
<生まれつきの性格>というものは確かにあるとしても、そんなものは成長過程においてそれぞれの性格に合わせて必要な要領を学んでいってもらえればいくらでも補えるものでしかない。<生まれつきの性格>を言い訳にして子供に必要な要領を学ばせないなど大人の怠慢だとしか蓮華は思っていなかった。
「生まれつき大人しくても人見知りでも癇癪持ちでも短気でも、それを補う為に身に付けるコツっていうのはあるのよ。それを学ばせずに『生まれつきの性格だからどうしようもない』とか、怠慢にも程があるわ。
<生まれつきの犯罪者>とか<生まれつきの人殺し>なんて存在しないのよ。いるのは、<子供を犯罪者や人殺しに育て上げる大人>よ。
京香、あんた、<七人殺しの役童>って呼ばれた元死刑囚のことを知ってる?」
唐突にそう問い掛けられて、千堂京香は、「あ…! い、いえ、知りません!」と咄嗟に応えていたのだった。




