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反面教師

無論、どんなことにも例外は存在する。そういう大人に対してまるで恐れを抱かない子供だって稀には存在するだろう。しかしそういうのはまたそれに合わせた対応を考えればいいだけの筈だ。何もそこに基準を置いてその例外に当てはまらない子供にまで同じ対応をする必要はない。


牧内不動まきうちふどうは常にそれを念頭に置いていた。


それは、彼自身の両親や、妻の早苗さなえの両親を反面教師と捉え、その失敗から得た発想であった。そして彼は自ら実践し、結果を得てきた。


彼が育てた子供達は皆、穏やかな気性で他者を尊重し思い遣る器を持った人間に育った。女の子はもとより、男の子でさえいわゆる<悪ガキ>と言われるようなタイプではなかった。


人によってはそれを危惧する者もいるかもしれない。


『積極性に欠け、競争社会を生き抜くことができない』


と。


だが果たして本当にそうなのだろうか?。我が強く他者への攻撃性を表に出すタイプが本当に『優れている』と言えるのだろうか?。他人を蹴落としてでも自分が這い上がろうとする姿勢が、自分や他者の幸福に繋がるのだろうか?。


負けた者は死に、生き残った者こそが勝者である野生の世界と人間社会を同一に考えて、それで正解と言えるのだろうか?。


人間は自然の頸木から解き放たれることを自ら望んで今の社会を築いたのではないのか?。


人間が戦争を否定し世界大戦規模の戦争をしなくなったことで人口爆発が起こったなどという者がいる。


しかしそれは本当なのか?。第二次大戦後の人口の推移を国別地域別に見ると、先進国と後進国とではどのような違いがあるのだろうか?。


いわゆる先進国と言われている国ではむしろ、人口増加は緩やかになり、国によっては減少傾向にさえあるのではなかったか?。


それに比べ、ライフラインすら国土全体には行き渡らず、明日自分が生きているかどうかも定かではないような国や地域でこそ極端な人口増加が起こっているのではないのか?。


その事実を鑑みれば、弱者であっても生きていける社会体制を築いた方が人工爆発を抑えられるということにはならないか?。


少なくとも牧内不動はそう考えている。とは言え、そこまで大きなスケールの話をしなくても、他人に厳しく自分に甘い人間は結局は他人から疎まれ、力を持ち利用価値があるとみられているうちはよくてもそれを失えば途端に見捨てられるのがオチだと考えているというのもあった。


他人に恨まれるようなタイプは、結局は自分が不幸になると。


だから彼は、子供を大切にするのだ。どうするのが他人を大切にすることになるのかというのを身をもって実感してもらう為に。



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