幸せになるんだ……
こうして健雅は、殺人未遂の容疑で逮捕された。
往生際悪くあれこれ言い訳を並べて容疑を否認したものの、三人の目撃者と監視カメラの映像があっては言い逃れはできなかった。
監視カメラの映像についても、
「盗撮は証拠にならねーんだろ!?」
と言い張ったものの、家主である蓮華が、あくまで防犯目的で玄関ホールを撮影していただけのそれは<盗撮>とは言えないとして証拠採用され、ロープ代わりのアンテナコードで首を吊る準備をしていたところから、酔いつぶれた蓮華を抱きかかえてアンテナコードに吊り下げるところまでしっかりと映っていては、裁判員の誰一人、健雅の言い分を認める者はいなかったという。
むしろ非合理な弁明を続ける健雅の心証は最悪であり、諸々の余罪と合わせてとは言え、殺人未遂事案としては異例とも言える懲役十七年(未決拘留期間含む)の判決が下った。
もちろん健雅はこれに反発し控訴したものの、懲役十七年が十五年と僅かに短くなっただけで有罪は変わらず、それでも上告したがこれも棄却され懲役十五年が確定。服役することとなった。
なお、健雅が取り押さえられた際、健侍が過剰防衛の疑いで書類送検されるということもあったが、これは当の健侍自身がそれも覚悟の上で自身の感情をぶつけた面もあったことで、おとなしく従った。この点でも父親と息子は対照的だっただろう。
しかし幸いと言うべきか、検察が当時の状況を精査した結果、健侍の過剰防衛については嫌疑不十分と判断され、『今後このようなことのないように自制すること』と注意を受けた上で不起訴処分とされた。
そして、ほんの数秒とはいえ首吊り状態となった蓮華は、こちらはすぐに助け出されたこともあり深刻な状態になることなく回復。入院した病院のベッドで、
「あんまり心配かけるなよ…蓮華」
と、面会に来た斉藤敬三にボやかれるだけで済んだ。
もえき園の職員や子供らには知らされていなかった上に事件そのものも大してニュースにならず、事情を知っているのは、この斉藤と弁護士の一条をはじめとしたごく一部だけであった。
「……ごめん……」
斉藤に叱られて、蓮華は、元々小さな体をさらに小さくして子供のようにしょげていた。これまで誰にも見せたことのない姿だった。
そんな蓮華に斉藤は言う。
「蓮華…お前は何でもかんでも一人で背負おうとし過ぎだ。もっと俺達を頼れ。宿角の家のことは確かにお前らの問題かもしれねえが、家のことが全部個人で片付けられるなら俺達警察の仕事はもっと少ないんだよ。
いや、警察としてじゃねえな。俺達もお前の家族なんだ。それを忘れるな」
「……」
斉藤の言葉に、蓮華は何も言い返せなかった。分かってるつもりだったが、それでも痛いところを突かれた形だった。
そんな蓮華に、斉藤はさらに言った。
「お前が子供らにいつも言ってることを言ってやる。
生まれきたる者よ。俺達はお前を歓迎する。だから一人で悩むな。苦しむな。抱え込むな。お前はもっと甘えていい。お前にできないことは俺達が力になる。
だからな、幸せになるんだ……」




