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自分もそうだったなあ……

ここには、灯安良(てぃあら)のことを侮る人間も貶めようとする人間もいない。素直に甘えようとした途端にちゃぶ台をひっくり返す人間もいない。


だからただ素直に甘えればよかった。これまで親に甘えられなかった分を取り戻そうとすればよかった。


けれど、他人を信用できないからそれができない。


他人はすぐ嘘を吐く。親切そうな顔をして近付いて、その親切に甘えようとすると腹の中で舌を出し、馬鹿にする。


自分はルールもマナーも無視して甘えてるくせに、他人には『甘えるな!』と言う。


他人を罵るのはマナー違反だと子供には教えながら、ネット上には、他人を罵り、嘲り、貶し、腐し、見下す言葉が溢れているではないか。しかもそれを、


『マナー違反だ』


と諌めようとすれば、


『言いたいことも言えない世の中はおかしい!』


と被害者面して自分だけを甘やかしてもらおうとする。自分だけは言いたいことを言って、他人には言わせないようにしようとする。


こんな連中の何を信じろというのか?


どうせここにいる連中も皆、口先では綺麗事を並べながらも、自分が我儘を言えばキレて、


『甘えるな!』


とか怒鳴るに決まってる。どうせ怒鳴って殴って言うことを聞かせようとしてくるに決まってる。今はまだ<良い人>ぶってても、きっとそのうちボロを出す。出させてみせる。


今の灯安良(てぃあら)は、他人の意見にしつこくケチをつけてくる人間と同じだろう。そうやってしつこくケチをつけることでボロを出させようとしてるのだから。


彼女がそうだということを、もえぎ園の職員達は痛いほど分かっている。かつての自分と重なってしまって、時にいたたまれない気持ちになることもある。


『自分もそうだったなあ……』


と心の中で苦笑いを浮かべる。


しかし、そんな過去の自分と向き合うことができるようにはなっているので、それができるようになった者しか職員として戻ってくることはないので、痛々しい過去の自分の姿を見せつけられたくらいでは感情的になることもない。


昔の自分が職員に対してやったのと同じことをやり返されるのが分かっているが故に、その覚悟のない者は志望しない。


だから待つだけだ。


『甘えても大丈夫』


だと灯安良(てぃあら)が思ってくれるのを。


子供は未熟であるが故に我儘を言う。自分のことしか考えられない。配慮ができない。気遣いができない。


当然だ。それらは大人の姿を見て学ぶのだから。


我儘で、自分のことしか考えられず、配慮もできず、気遣いもできない大人ばかりを見て育てば、それができるようになる方がむしろおかしいだろう。


いったい、どこでそれを学んだのか?という話になる。


もっとも、自己申告で、


『自分は、我儘を言わず他人のことを思い遣れて配慮ができて気遣いができる人間だ!』


と言い張る者なら珍しくないだろうが。



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