表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/282

どちらがより可愛いか?

もえぎ園では、トイレと同じで、基本的に職員も含めて全員が同じ風呂に入る。本人が望むなら男女も一緒に入っても構わない。


しかし同時に、嫌がっているのを無理に一緒に入れることもしない。また、男性職員と女児。女性職員と男児を一緒に入れるのはいろいろ誤解を招きかねないので原則禁止している。


とは言え、昨今は同性同士での猥褻被害なども表面化してきているので、同性同士だからといって油断はできないが。


なので、基本的には複数の職員が一緒に入ることで監視している形にはなる。


このため、子供達を風呂に入れるのが一番大変な作業と言えるかもしれない。何しろ、全員が一緒に入るわけではないので、職員はずっと風呂に入ったまま、子供達を交代で入れるわけで。


が、大変だからとここで大人の側の都合を押し付けるとやはり不信を招くことになる。大変だからこそそういう部分では手は抜かない。


「あきちゃんとはいっしょにおふろはいらない!」


園児の年少組の女の子がそんなことを言って、いつもは一緒に入っている、仲良しのはずだった女の子と一緒に風呂に入ることを拒んできた。昼間に些細なことでケンカになって、それを引きずっているのだ。


ここまでに何とか仲直りしてもらえるようにとりなしてきたものの、人間の感情というのはそんなに単純ではない。数日にわたって拗れることもある。


そういう時にも無理に一緒に入れることもない。逢えて別々にすることもある。


これらの対応を、


『子供を甘やかしてる』


と言う人間もいるが、そこで手を抜きたいがために楽をしたいがために無理に一緒に入れるのは、それこそ大人の側の<甘え>ではないのか? そういった大人の<甘え>を子供は見ていて、真似をするのではないのか?


だから敢えてここでは手間を掛ける。手間を掛けた上で本人達の関係改善を図る。拗れている原因を客観的に探り、感情が昂ぶっている間はそっとしておいて、双方が落ち着いてきたのを確認すると、それぞれに妥協案を提示したりもする。


今回の諍いは、


『双方が好きなぬいぐるみのどちらがより可愛いか?』


で言い争いになったらしい。同じぬいぐるみを取り合いになったとかではなく、それぞれのお気に入りのぬいぐるみの魅力を語り合っていて、結果として張り合いになってしまったようだ。


しかし、何をどう『可愛い』と感じるかはこれはもう完全にそれぞれの感性の問題である。『蓼食う虫も好き好き』という言葉さえあるように、同じものを同じだけ『可愛い』と感じることはまずないし、何を『可愛い』と感じるのかさえ人それぞれだ。


これは対処を誤ると決定的に関係が拗れる事例だった。だから解決を急ぐことはしない。


「そうか分かった。じゃあ、今日は別々に入ろうか」


頬を膨らませて怒っている女の子の前で跪いて視線を合わせてその主張に耳を傾ける職員の姿を、妊娠中のため、宿直職員用の風呂に入ることになっている灯安良(てぃあら)と、彼女の付き添いとしてついていく阿礼(あれい)が通りすがりに見ていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ