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そんなんで人生楽しいのか?

「おはようございます」


そう言って園長室に入ってきた千堂(せんどう)京香(きょうか)が、


「ゆっくり休めましたか?」


と訊いてきたので、


「ひたすら退屈だっただけだけどね」


正直なところを応えた。


すると京香は、


「園長は何か趣味とかお持ちじゃないんですか?」


とも。しかし蓮華は肩を竦めて、


「子供達の姿を見てる以上に楽しいことなんて、少なくとも私にはないかな」


やはり正直に答える。さらに、


「酒を飲んだりパチンコに行ったり競馬をしたり映画を観たりライブに行ったりアニメを観たりっていうそれぞれ楽しいことはあるんでしょうけど、私にとってはそれが『子供達を見てること』ってだけなの。趣味は人それぞれ。なのに、『そんなんで人生楽しいのか?』なんて訊いてくる輩もいる。


実に大きなお世話。アイドル好きに『アイドルの追っかけなんかしてて、そんなんで人生楽しいのか?』って訊いてるのと同じだって何で気付かないの?って話。まさに<大きなお世話>でしょうが。


私に言わせれば、ネットで日がな一日罵詈雑言垂れ流してる連中の方がよっぽど『そんなんで人生楽しいの?』って思うけどね」


とも。


「ははは……」


京香は苦笑いを浮かべるしかできなかった。


そんな彼女に、蓮華は、


「でも、私がきちんと休まないと職員も安心して休めないっていうのは確かに道理だと思う。それをきちんと私に説いてくれたことについては感謝しなきゃね」


そう言って頭を下げた。


「あ…いえ、そんな……!」


これには京香の方が慌ててしまう。そう。これなのだ。蓮華は『自分だけが正しい』とは考えない。ネットでただ罵詈雑言を垂れ流す者に対して呆れながらも、当人にはそうせずにいられない<理由>があることも理解している。


ただし、その理由を言い訳に正当化しようとするなら、


『ただの甘ったれ』


としか思わないが。


『理由さえあれば他人を傷付けてもいい』


などと蓮華は考えていないからだ。


『一方的にやられっぱなしになってるのはおかしい』


なんて言い訳も、通用しない。


本当に一方的にやられっぱなしになっていることなど、虐待事案でもない限りはまずない。ましてや普段から好き勝手なことを言ってたような者の場合、いったい、いつ、『一方的にやられた』と言うのか? それまで自分が他人に対してやってたことは何なのか。


普段の行いを棚に上げて『一方的にやられた』とは、どの口が言うのか?


こう言われても、さらに言い訳を並べて自己弁護をするのだろうが。


しかしついついそういうことをしてしまうのも<人間の性>というものなのだろう。それも蓮華は理解している。


だから叱責することはあっても、見捨てることはないのである。



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