表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/282

憎悪

壮絶な幸恵ゆきえの過去を聞いて、好羽このはは少しいたたまれない気分になっていた。自分と同じようにして子供を生んだと言われても、レイプ被害者だった彼女に比べれば、援助交際で自ら相手を受け入れた自分など、どう考えたってただの自業自得でしかない。


彼女はそう思った。


それが表情に出てたのか、幸恵は言った。


「なんだか、自分なんかただの自業自得で恥ずかしいって感じの顔ね」


見事に図星を突かれて、今度はギョッとした表情になってしまった。すると幸恵はふっと優しく微笑んだ。


「そんなこと、気にしなくていいのよ。あなたは確かに愚かなことをしたのかもしれないけど、本来なら大人はそれをたしなめなきゃいけないのよ。なのに、あなたの愚かさに付け入って自分の欲望を果たそうとするなんて、そんなの、レイプ犯となにも違わない。だから、未成年の子を相手に買春するのはより厳しく対処されるの。


未熟で人生経験も少ない子供が判断を誤るのなんて当たり前よ。誰だってやらかしちゃったことの一つや二つはあるでしょう?。あなたの場合はたまたまその結果がちょっと重大だっただけ。大人があなたを買わなければ、こんなことにはならなかった。あなたよりも人生経験を積んでる筈の大人がね。


自分の責任を理解してない大人なんて、ただの害悪よ……!」


そう言った幸恵の目には、ほの暗い感情が渦巻いているようにも見えた。それは、憎悪だった。自動車を運転できるくらいの大人だった筈のレイプ犯達に対する明らかな憎悪だった。自分の欲望の為に他人を蹂躙する大人への、激しい憎悪がそこには込められていた。


だが、それはすぐに影を潜めた。再び好羽の目を見た彼女には、いつもの笑顔が戻っていた。幸恵は、自らに降りかかった悪夢と折り合いを付けられるようになっていたからだ。そして彼女を苦しめたレイプ犯は、その後、余罪も含めて追及されて、全員、刑務所に収監されている。彼女の事件から五年後のことだった。常習性を重視されて、二十年から二十五年の実刑を受けて現在も服役中だ。何度か仮出所が検討されたが、反省が足りず再犯の恐れありとしてことごとく却下されている。


それでもなお、幸恵の中には彼らへの憎悪が揺らいでいる。そしてそれは、生涯消えることはないだろう。犯罪被害というのは、そういうものだ。時間が経てば必ず薄れるというものではない。


だからこそ幸恵は、『自分は他人を蔑ろにして傷付けて苦しめて蹂躙するような大人にはなりたくない』と思った。そして必死に勉強し、医師となった。


メイドのような恰好をしてはいたが、彼女はれっきとした産婦人科の医師であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ