自分から不幸に
宿角蓮華は、子供達の相手をしている時は疲れを自覚することがほとんどない。
その辺りは見た目の通り子供にも通づるものがあるのかもしれない。とは言えもちろんまったく疲労しないというわけでもない。子供の相手をしていると楽しくて疲労を自覚しないというだけだ。
だから本当はちゃんと休息を取った方がいいのだろうが、しかし彼女の場合それは数時間で事足りてしまう。一晩しっかりと眠れば平気なのだ。
が、だからと言って他の職員が彼女と同じというわけでももちろんない。
故に、千堂京香が職員のために蓮華に『休んでください!』と言ったのも正論である。
『分かってる。分かってるんだけどね……』
などとつい<言い訳>をしてしまう自分も、蓮華は自覚していた。
なので、厳しいことも言うものの、どんな相手のこともこの世から排除していいとも思っていない。だから<銀朱荘>のような、社会と上手く適応できずにはみ出してしまう者や、子供を愛せずに、子供だけでなく自らをも傷付けてしまうような親にも支援を行えるような体制を整えているのである。
蓮華は、<行為>に対して憤るだけで、個々人そのものを憎んだりもしない。
事実、かつて彼女を誘拐し、体に一生消えない傷を刻んだ者達についても、出所後の更生のための支援を行っていたりもする。
ただ残念ながらそうやって構われることを嫌い行方をくらましてしまう者もいるのも現実なのだが……
それらについての資料も読み耽り、蓮華は時間を潰した。
『どうして人間は、自分から不幸になりに行こうとするのかしらね……』
そんなことも思う。
と、日が傾き、部屋の中が薄暗くなってきていることにようやく気付いた。
『はあ、やっとこんな時間か……無駄に時間が長いわね……』
正直な気持ちだった。
埋もれるようにして体を預けていたソファから起き上がり、キッチンで冷蔵庫を開けた。そこからレトルトのチャーハンを取り出し、電子レンジで温め、軽く食事にする。
料理はできるものの、普段はしない。食べることにあまり興味がないからだ。腹が減るから食うだけで、腹さえ膨れれば別に何でもよかった。
わざわざ外に食べに行くこともあまりない。
園にいる時は子供達が残したものを食べるのが彼女の基本的な食事だった。
それもあって、子供達の食べ物の好みも把握している。
彼女のすべては子供達が基準になっていた。




