そんな大人の姿を
「凶悪事件を起こす輩に『一人で死ね!』とか言ってそれが効果を発揮するとか思ってる人間がいるなら、そいつは<人間の心理>というものをまるで理解してないんでしょうね。
やけくそで事件を起こすような奴がそんなことを言われて素直に従うと思うの? 言われたらそれこそ逆上するとは思わないの? ネットで罵詈雑言を並べてる連中に、『それは人として恥ずかしいことだ! やめるべきだ!』とか言って素直にやめる? 大抵は逆ギレするだけでしょうが。
他人に正論で諫められて逆ギレした経験のある奴は、『一人で死ね!』とか言われたって言われた方は素直に言うことなんて聞くはずないと、自分の態度から見て思い当たる節はないの? 想像力はないの?
まあ、ないんでしょうけどね。あればきちんと自分で役立てられるでしょうし。
で、人間の心理を理解してないから強引に事を運ぼうとかして上手くいかない。反発を招く。足を掬われる。なぜ自分がそういう失敗をしたのか、理解する気はないの? それを理解しない限り、何度でも同じ失敗を繰り返すわよ?
そうやって反省もしない、自分が上手くいかない原因も理解しようとしない、そんな大人の姿を真似た子供が同じ失敗をしたら、馬鹿にするの? まったく、何様?って話だよね」
宿角蓮華はそう言う。
だがその一方で、彼女は自分が関わることになった相手を見捨てるということもしなかった。自分から逃げ回っていた宿角健雅のことも見捨ててはいない。
「あいつは放っておいたら必ず事件を起こす。だから放ってはおかない」
残念ながらこれまでは手が届かなかったことで次男に対する暴行事件を未然に防ぐことはできなかったものの、警察に身柄を確保されて所在が確実に掴めるようになった。
今後は逃げられないようにしつつ更正を支援することになる。
もっとも、更正が可能であるかどうかは未知数だし、正直言って難しいとも思っている。だから実際には<監視>という形になるだろう。しかしこれ以上罪を重ねさせないためにも、なにより『これ以上の被害者を出さない』ためにも対応は必要だった。
ゆえに放っておかない。
それでも逃げられる可能性も否定はできない。しかしそれは努力を怠っていい言い訳にはならない。
不作為によって被害が出ることを宿角蓮華はよしとしない。
それができる能力がない者にまで対応を強要しないものの、自分にはそれができるのだからやらないという選択肢はない。
自宅のリビングで暇を持て余しつつ、蓮華は現在の園がかかえている案件の対応について延々と思考していたのだった。




