人間関係
こうして、阿礼はもえぎ園の職員や他の園児達との間に立ち、それを取り持とうと考えた。灯安良が仲良くできない代わりに自分が仲良くして、彼女に対する感情を少しでも和らげようと思ったのだ。
それが、彼なりの<守り方>だった。中性的な見た目の通りに体力や腕力についてはまったくだけれども、彼の守り方の方が現代においては実効性があっただろう。
人間社会で生きる上に置いては、結局、人間関係についてのあれこれについての方がウエイトが圧倒的に大きいだろうから。
「灯安良の態度については僕から謝るから、彼女を責めないでください」
阿礼は久人に対してもそう言った。
それに対して久人は、
「大丈夫。ここの人達はちゃんと分かってくれるよ。それに、赤ちゃんのことを第一に考えてるから、赤ちゃんのためにも怒鳴ったりとかしない。優先順位を間違ったりしないよ」
と微笑む。
彼自身の実感だからだ。トランスジェンダーという、そうじゃない人達からどころか当のトランスジェンダー達自身もまだまだ理解が十分でないようなことであってもきちんと受け止めてくれるところなのだから、たとえ小学生の妊娠にだってしっかりと向き合ってくれると思える。
実際、灯安良が他の園児達にも職員にも心を開こうとしなくても、誰も声を荒げなかった。
とは言え、灯安良の方はそれを素直に信じることができない。それでもお腹は容赦なく大きくなっていく。
「あ~、無理…! 無理ぃ~!」
仰向けになっても横向けになっても楽にならず、昼となく夜となく胎児は動いたり蹴ったり叩いたりしてきてまったく寝られない。かと思うと気を失うように寝てしまったりもする。だけどそんな中で、どん!とお腹の中から蹴られて、
「ひいっ!?」
と声を上げて目が覚めてしまったりもした。
だからもう音を上げずにはいられなかった。やはり、大人の女性でも大変なそれを、小学生の身で味わっているのだから、むしろ当然なのだろう。
その所為もあり、灯安良はますます周囲に対して気遣いもできなくなっていった。
「あ~…! うあ~っ!!」
などと呻き声を上げたりして、異様な空気を作り出す。
幼い園児達などは不安がって落ち着きを失いかけたりもした。
それでも職員達は慌てない。灯安良を責めない。今の彼女を責めるのは、結果として胎児に対する暴力に当たるからだ。
この状況も、彼女の出産が終われば解決する。
間倉井好羽の場合は、秘密裏に出産するために、シェルターでの出産となった。しかし灯安良の場合は逆に公的に保護された身だ。下手に隔離すると逆に不信がられるというのもあって、それを園で迎えるのだ。
そして阿礼は、灯安良に代わって、
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と謝り、頭を下げ続けたのだった。




