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恥ずか死ぬ

「ふう…、ふう…」


大きなお腹を抱えて好羽このはは日課の散歩を館の庭で行っていた。しかし臨月を迎え、もう少し歩くだけでも息切れを起こしてしまう。自分の脚元は見えないしバランスは悪いし腰は痛いし、もう二度と妊娠なんてしたくないとも思った。


しかもすごく恥ずかしいこともあったのだ。腰が痛くて幸恵ゆきえにマッサージしてもらっていると<おなら>が出そうになったので、『ごめん』と言おうとして、


「あ。ごめ…」


と言いかけた時に、まるでコントの効果音のような、


ぶぅううううぅううううぅぅぅぅっっ!


などという、およそ自分の体からそんなものが出るとは思えない、音量も時間も人間離れしたすごい<おなら>が出てしまったのである。


「あ!、いや、その、これは……!!」


まさかの事態に、好羽はパニックを起こして頭が真っ白になってしまった。恥ずかしいやら自分でも驚いたやら、『恥ずか死ぬ…!』と、このまま消えてなくなりたいとさえ思ってしまった。


だが幸恵は少し驚いた顔をしながらもにっこりと笑って、


「ガスが溜まってたんですね。妊娠中はどうしても腸の動きも低下するので、こういうことはよくあるんですよ」


と軽く受け流してくれたのだった。事実、皆恥ずかしがって言わないだけで、こういうことはそれほど珍しい出来事でもない。幸恵自身にも似たような経験があった。だから言った。


「私も、上の子を妊娠した時には同じようなことがありました」


頬を染めながら恥ずかしそうにそう口にした幸恵に、『…そうなんだ……』と少しだけ気が楽になった。


それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。こんな目にまで遭わなきゃいけないとか、本当に妊娠なんてロクなことがない!と好羽は心底思った。


ただこの時、


『あれ?。幸恵さんって三十代くらいだよな。じゃあ子供はまだ学校に行ってるくらいじゃないのかな。こんなところで私の面倒ずっと見てていいのかな……?』


というのが頭をよぎったが、何故かそのことは口にしない方がいい気がして黙っていたのだった。


だけどその夜、急に腹がギューッと搾り上げられるかのように痛み、


「い、痛い!、痛い!!。幸恵さん!、幸恵さーん!!」


と悲鳴のような声を上げて彼女の名を呼んでしまった。良くないことが起こったような気がして不安になってしまったのだった。


駆け付けた幸恵がその様子を見るなり、ホッとした顔で言った。


「大丈夫。陣痛が始まっただけよ。まだ始まったばかりだからしばらくしたら収まるわ」


その言葉通り、数分で痛みは嘘のように引いた。しかし、これが陣痛とは、思っていた以上の痛みだった。


不安で泣きそうになっている好羽に幸恵はさらに語り掛ける。


「不安なのね。でも心配ない。私だって十三で産んだんだもの。私がついてる。一緒に頑張りましょう」



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