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園児達

もえぎ園に迎えられた灯安良(てぃあら)阿礼(あれい)だったが、さすがにすぐには馴染めなかった。いつも二人だけで寄り添い合い、他の園児達とは関わろうとしない。


しかしそれは普通のことなので、これ自体を案じる職員はもえぎ園にはいない。


むしろそこに保護されている<園児>が二人のことを気に掛けていた。


「え…と、あの…どうかな? ここには慣れたかな…?」


そう話しかけてきたのは、以前、家庭内でのジェンダーハラスメントを理由にもえぎ園に保護された守縫(かみぬい)久人(ひさと)だった。


現在、もえぎ園では最年長の彼は、職員の手伝いをして園児達の面倒をみる役目をしている。なので、新しく入ってきた二人のことも気に掛けていたのだ。


「あ…うん。大丈夫だから……」


灯安良(てぃあら)はそれだけ応えて『構わないで』というオーラでも放とうとしてるかのように顔を背けてしまう。


一方、阿礼(あれい)の方は、


「ありがとう」


と素直に礼を言った。


男性でありながらやや中性的な雰囲気を持つ阿礼(あれい)は、トランスジェンダーである久人(ひさと)とは割と相性が良かったようだ。


なお、男性でありながら女性としての感性を持つ久人(ひさと)だったが、もえぎ園では『男性らしく』『女性らしく』ということは一切言われないので、『自分らしく』いることができており、そのため、精神的には非常に安定していた。


最初の内は他の園児や職員とは別にしていたトイレも、今では同じトイレを使えている。また、トイレ掃除も今でも進んで行っている。すっかりもえぎ園が彼の<家>となり、園児達や職員が<家族>となり、幸せに暮らすことができていたのだ。


だからこそ他人を気遣う余裕も出てくる。


しかし、阿礼(あれい)はともかく灯安良(てぃあら)の方はそれどころではなかった。


と言うのも、妊娠によるホルモンバランスの変化も影響していて、精神的に不安定になっているのである。


彼女の妊娠については、理解できる園児達には既に伝えられている。そういうことについてもえぎ園では基本的にタブー扱いしない。生きている人間がなることについては基本的にオープンにするのが方針だった。しかし同時に、本人の状況により必要と判断されれば例外的な対応ももちろんする。


さりとて、灯安良(てぃあら)の妊娠についてはそもそも隠しておけるようなことではないので、下手に誤魔化してトラブルになってもというのもあり、隠し立てはしなかった。


むしろ、妊娠中の女性との接し方を学ぶ機会とさえ捉えている。妊娠に限らず、久人(ひさと)を通じてLGBTについても学ぶし、虐待を受けたりした児童との接し方も学ぶ。こうやって生きた学習を受けるのだ。


『自分と他人は違う』


『人はそれぞれいろいろな事情を抱えて生きている』


それを知り、違いや他人の抱えている事情を受け止めることで自身の抱える問題も受け止めてもらえるということを、園児達は学ぶのだ。



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