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最適化

『子供さえできれば女は誰でも母性に目覚めるなんてただの迷信です』


その言葉を聞いた時、好羽このはは自分の中で何かがストンとハマるのを感じた。


『ああ、そうか…。そうなんだ……。それでいいんだ……』


両親が自分に関心を持ってくれなかったのも、自分がお腹の中の子を可愛いと思えないのも、別に異常なことじゃなかったんだ。


それに気付いた瞬間に、自分がこれまで感じていたモヤモヤにすべて答えが出てしまった気がした。


『そっか…。無理に可愛いとか思わなくてよかったんだ。あの人達が私のことをどうでもいいみたいに思ってたのも、愛情がないんなら当たり前だよな……』


なんだかもう、そういうことをずっと気にしてきたのが全部バカバカしく思えてしまった。


実はこの頃には、分数のおさらいから始まった好羽の勉強も、中学生レベルに達していた。授業で聞いててもぜんぜん頭に入ってこなかったことが幸恵ゆきえに教わるとすっと頭に入ってきた。


それは、幸恵が好羽の関心があることを敏感に見抜いてそこから進めたからだった。分数でも、割り算が掛け算になるというのが理解できなかったが、『何故そうなるのか?』ということには実は興味がなかった訳じゃなかった。


だが、学校では好羽一人の関心事に合わせて授業を進めることはできない。彼女が納得できないまま先に進められてしまって、それでもうついていけなくなってしまった。興味が失せてしまった。


好羽の知能そのものは、決して低くなかった。ただそれを上手く活かせる指導法に出逢えなかっただけだ。その所為で考えること自体が面倒になり、物事を深く考えたり見たりすることもやめてしまったのだった。


これは、大人数を一度にみなければいけない現在の学校の仕組みからすればどうしても生じる齟齬だった。制度そのものの欠陥というよりは、どう頑張ってもそこからこぼれてしまう児童をフォローする仕組みがなかったことが問題だったと言えるかもしれない。どんな仕組みにしてもそれに適さない人間はいるのだろうから。


しかしここでは好羽の為だけにすべてが最適化されている。これまでの仕組みに乗れなかった彼女が乗れる仕組みがここにはあるのだ。むしろ、普通の学校でこそ能力を発揮するタイプは逆にここでは適応できなくて落ちこぼれてしまうかも知れなかった。


『子供さえできれば女は誰でも母性に目覚めるなんてただの迷信です』などと言われれば、母性が当たり前のように発露するタイプはそれが納得できずに反発してしまうだろう。



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