処遇
「なんだよムカつく……っ!」
入店を断られて灯安良は腹を立てていた。
「こんなサービス悪い店とかツブレろよ! 客のことなんも考えてないじゃん!」
とまで吐き捨てる。
しかし灯安良は勘違いしている。店側がサービスを提供するかどうかは、店側が決めることだ。客はあくまで店側と契約した上で対価を払いサービスを受けるのである。
灯安良がそれを理解していないのは、彼女の両親もそれを理解していないからだ。何かちょっと気にらないことがあると、
「こっちは客だぞ!?」
とキレることが多かった。灯安良はそれを間近で見てきている。だから両親の価値観をそのまま受け継いでいただけだ。
その様子も、彼女らを尾行していた探偵によって確認されている。
なお、二人を尾行していた探偵は、三十代前半の男性と二十代後半の女性の二人組だった。夫婦を装うための組み合わせなのだが、共にアルバイト時代も含めるとすでに探偵歴十年以上のベテランと言ってもいい腕利きだった。
なので誰も怪しむことがない。
そんな探偵に見守られているとは考えもしない灯安良と阿礼は、仕方なく駅前に出ていた移動販売車のクレープを買ってその場で食べ、それから大型スーパーの中のゲームセンターに入って遊んだ。
だが、少しすると、灯安良がゲームセンター内の休憩用の椅子に座って、
「ふう……」
と溜め息を吐いた。
「大丈夫…?」
阿礼が隣に座って心配そうに声を掛ける。
「ああ、うん。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ……」
灯安良はそう応えたが、少し顔色も悪かった。既に妊娠二十八週に差し掛かっていたことで体も少しふっくらとした印象になっていた彼女は、ゆったりとしたワンピースを身に着けて体のラインがなるべく出ないようにしていたものの、その姿はやはり見る者が見れば<マタニティドレスを着た小柄な妊婦>にも見えるものだっただろう。
そこに、
「あなたたち、中学生? 小学生かな……?」
と声を掛けられた。見上げるとそこには、柔和な笑顔を浮かべた中年女性とやや武骨な印象もある背広を着た若い男が立っていた。
『補導員だ……!』
それを見た灯安良と阿礼はすぐに察した。
けれど、これ自体は既に想定済みのことだった。
だから二人は顔を見合わせ、
「実は……」
と、あらかじめ打ち合わせておいた通りに自分達が両親の虐待から逃げてきたと申告し、
「助けてください……!」
そう言いながら女性に縋りついた。
こうして灯安良と阿礼は保護され、狙い通りに地域の児童相談所へと移送はされたものの、実際にはそんなに甘くはなかった。
児童相談所の担当者が二人を前にして言ったのだった。
「あなた方二人に対しては、共に警察に捜索願が出ています。なのでお二人については、地元の警察が預かることになり、処遇については地元の児童相談所と協議の上で決定されることになります」




