監視
こうして自分達のそれまでの<家族>を捨て新しい家族を作って幸せになろうと考えた灯安良と阿礼だったが、<もえぎ園>園長、宿角蓮華には完全にお見通しだった。
「戸野上、例の二人、家出する可能性が高いからしっかり見張っておいて」
探偵事務所を経営している戸野上猛に自費で依頼して、網を張っていたのである。
数多くの事例を見てきたが故の対応だった。
「ただし、私が指示するまでなるべく接触はしないで。危ないことがあれば助けてあげて欲しいけど、原則は静観で。いいわね?」
「はいはい、分かってますよ。いつも通りですね」
こうして戸野上探偵事務所の探偵の中でも腕利きの二人が、灯安良と阿礼を監視。尾行を始めた。
小学生の子供の尾行など、造作もなかった。すると二人は東北の某市に降り立った。そこは、ネットで調べた、
『児童相談所の対応が丁寧』
という口コミが多いところだった。
他にも候補はあったが、灯安良の両親が西日本の出身で、親戚も西日本に多いことから自分達が行くとしたそちらの方に違いないと両親が考えると予測し、東北を選んだというのもある。
もし警察に捜索願を出されたら?
「その時は、児相に保護を願い出るんだ。そうすれば強引なことはできない。後はとにかく『家には帰れない!』って言い張れば引き延ばしはできるはずだよ」
灯安良はそう考えていた。
しかしその前に……
「カラオケでも歌っていこっか」
駅前にあった、家にいた時にも何度か利用したことのある全国にチェーン店を持つカラオケボックスを見付けて、取り敢えずそこで楽しんでから児童相談所に行くことにした。
だが、受付で、会員証を提示して入店しようとすると、
「当店では、中学生以下の方は保護者の同伴がなければご利用はお断りさせていただいてます」
と言われてしまった。
「なんで!? ここ、他の県とかにもあるのと同じ店だよね? 私の家の近所のだと入れたよ!?」
と食って掛かる灯安良に、店員は、
「申し訳ございませんが、当店を管轄する警察の指導により、他の地域とは異なる対応をさせていただいております。また、この会員証を作られた店舗であれば保護者の方が事前にお子様だけの利用を認めてらっしゃいますのでご利用できますが、他の店舗ではそれはできない点は、全店同じ対応になっております」
という風に、木で鼻を括ったような応対しかしなかった。
もっとも、店側も昨今の情勢を踏まえてその辺りの対応はきちんとするようにしているのだから、この店員には何の落ち度もないのだが。




