行動開始
しかし、幸恵がどれほど<もえぎ園>を信頼していようとも、灯安良には関係のない話でもある。
だから彼女は彼女なりに行動する。
「あの病院はダメだ! 他に行こう! どこかに必ずちゃんとしてくれるところがあるはずだ!」
家に帰った父親がそう言って人工妊娠中絶を扱っている病院を調べ始めた。そして片っ端から電話をかけ始める。母親も手伝って。
両親にとっては小学生の自分の娘が子供を生むなどという、世間に知れれば炎上必至の<ネタ>を提供するなど真っ平御免ということだ。
しかしそこにあるのは、<娘の将来を案じる親>としての姿ではなく、ただただ自分が面倒に巻き込まれたくないというだけの自己保身に必死になっている大人のそれでしかない。
灯安良はそんな両親に愛想が尽きていたのだ。
『こいつらはダメだな……使い物にならない……』
そして灯安良は決断した。自分の部屋に戻って荷物をまとめ、阿礼に連絡をする。
「阿礼、やっぱダメみたい。こっちの奴らは使えない。そっちはどう?」
その問い掛けに、阿礼も、
「こっちもダメだよ。僕達のことなんか何も考えてくれてない。自分が可愛いだけだ」
呆れ果てたように言った。
だから二人は決断した。
「逃げよう」
「うん、逃げよう。そして僕らだけで<家族>を作るんだ。僕も頑張るよ。大人になるまでどこかの施設を利用して、それから働く。僕が灯安良と家族を守る」
こうして二人はその夜、共に家を抜け出して、電車に乗った。とにかく人の少ない地方の街にでも行ってそこで児童相談所に駆け込んで保護してもらって、そこで子供を生んで自分が仕事できるようになるまで待って、それからというのが二人の計画だった。
よくそれだけの資金があると思うだろうが、二人の両親は自分達が子供を大事にしているという姿を演出する為に相場以上の小遣いを渡していて、二人はいずれこうなることを考えてその小遣いやお年玉を残しておき、既に二人合わせて十万円以上の資金を用意していたのだった。
まあ、大人の感覚からすれば十万円など逃走資金としても心許ないという印象しかないものの、小学生である二人にとっては大変な金額であったようだ。当面の間は生活できるくらいに思っていたのだろう。なにしろ電車賃も小学生だから大人の半分で済む。その調子で何でも安くなると考えていたらしい。
だが、今の世の中というのはそんなに甘くない。子供が抱える問題についてそこまで理解が進んでない。そこまで理解が進んで対応できていれば、そもそも二人がこうなる以前に対処してもらえたはずなのだから。




