愛の言葉
<新しい家族>
それを求めて、灯安良と阿礼は何度も肌を合わせた。
夏休みともなれば、それぞれ家に両親がいない時を見計らって互いの家を行き来し、一日中求め合ったりもした。
「阿礼、愛してる。あなたを体の中に感じる。私達、繋がってるんだ……」
「そうだよ、灯安良。僕達は繋がってる。僕達だけが繋がってる。他の人達とは繋がってなくても、僕と灯安良だけは繋がってるんだ……」
互いに口にする<愛の言葉>も、大人でさえ言えないような甘く真摯なものだった。
共に小学生なりに、二人は真剣だったのである。
とは言え、さすがにそう簡単には<家族>はできなかった。できなかったが、しかししっかりとそれができる行為はしていたのだから、可能性はもちろんあった。
行為の後、手慣れた様子でナプキンをショーツに当てながら履く灯安良を、
「男は終わったら綺麗にしてしまえば全然楽なのに、女の子ばっかり大変だな。ごめん……」
と阿礼が気遣う。
「ううん。平気だよ。だって阿礼のだもん。これが私達の家族になるんだって思ったら、このくらい」
灯安良はそう応えたものの、後になって垂れてきてショーツを汚すそれに困っていたのも事実だった。その所為で母親にバレでもしたら面倒だと、自分で洗濯するようにもなった。
「なに? また汚したの? まあ自分で洗ってくれんのならいいけど、女子用のは高いんだからすぐダメにするのは勘弁してよね」
洗面所でショーツを洗っていた時に母親に見咎められて面倒臭そうに言われて、
「分かってるよ、うっさいなあ……!」
とも言い返してしまった。
その後、ナプキンを使うのを思い付いたことで洗濯の回数は減ったものの、今度は汚れたナプキンの捨て方に気を付けないといけなくなった。<あれ>の独特の臭いは分かる人間にはすぐに分かりそうだと灯安良も感じたことで、ティッシュに包んだ上で紙袋やコンビニの買い物袋に包み、ゴミ箱の一番下に突っ込むようにした。
言われてみれば確かに面倒だ。どうして女性ばかりこんな気を遣わないといけないのかとも思う。
でも、今だけだ。阿礼との<家族>ができれば今のこんな腐った家族なんて捨ててしまえる。彼女は本気でそう思っていた。
小学生の自分達に生活能力や子供を育てていく能力があるかどうかなどすっ飛ばして、<家族>さえできれば万事上手くいくと思っているのだ。
完全に思考や論理が破綻している。そして、そんな自分に気付くことさえないほど、灯安良も阿礼も『壊れて』いたのだ。
二人を壊したのは誰か?
それは、他の誰でもない、二人をこの世に送り出した者達である。




