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良い親

この白い洋館で暮らすようになって、最初は友達とも連絡が取れないことが酷く不安だった。その一方で、両親と顔を合わせずに済むようになったのはむしろ嬉しかった。


間倉井好羽まくらいこのはは、自分が両親からその存在そのものが受け入れられてないことを感じ取っていた。『自分の子供として生まれてきたから仕方なく死なせないようにしてる』という程度の認識でしかないことを感じ取っていた。


だから、両親のことなんてどうでもよかった。


事実、好羽このはが友人に『家出するから』と告げて行方をくらましたことを、両親は対外的には心配しているような態度も見せつつ、内心ではホッとしていた。このままどこかで死んで見付かるくらいでちょうどいいと思っていた。そうすれば、テレビカメラの前で涙の一つも見せてやれば悲劇の親として世間の同情も集めるだろう。


その程度の認識だった。二人にとって娘は、ただの負担でしかなかったのだ。


そして、そんな両親の考え方を、好羽はしっかりと受け継いでいたということだ。自分の胎内に宿った命をただの<厄介者>としか捉えられないというところなど、まさに両親の姿をそのままコピーしたものと言える。


両親はただ、娘よりは外面を取り繕うのが上手いというだけでしかなかった。そしてその辺りも、いずれ好羽も成人して家庭を持てば真似するようになっただろう。


『子供に関心のない両親に見えて実は』などというのは、実際には<フィクション上の盛り上がる演出>でしかない。普段の態度から子供に関心がないところが見える親は、本心から子供に関心などないのだから。それを子供に見抜かれているだけに過ぎない。


いくら他人の前では<良い親>のふりをしていようとも。


きちんと関心があり、大切に想っているのならそれが普段の振る舞いに現れるのが人間というものだ。『どうせ子供にそんなこと分かる訳がない』と見くびっていては容易く見抜かれる。


何故なら子供にとっては親とは、自らの存在そのものなのだから。親がいなければ自分は存在しえない。故に子供は親を見る。幼ければ幼いほど、非力であれば非力であるほど、親の気分一つで自分の命は潰えるかもしれないのだから。


そして好羽はそんな親をしっかりと見てきたのである。だから『この親は頼れない』というのを心底感じていたのだ。


しかも、両親からは満たしてもらえない部分を、他人に求めてしまった。金品に求めてしまった。それらで補おうとしたことで、彼女は上辺だけの交友関係に縋り、刹那的で享楽的な充足感を金によって得ようとしてしまった。


間倉井好羽という少女は、そうして出来上がったのだった。



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