連鎖
改めて言うまでもないのかもしれないが、ネットによる情報拡散のスピードはすさまじい。
運が悪かったというのもあってなのか、朝に被疑者が逮捕される様子が動画と共にアップされると、夕方にはもはや収拾がつかない状態となっていた。
そして、それによる<被害>も出始めている。
「お前の父ちゃん、逮捕されたってよwwwww」
被疑者の息子、健喜が友人達とスマホのアプリで遊んでいた時、一人が動画サイトでまさに健喜の父親が私服警官を突き飛ばし、逮捕されるまでの一部始終が撮られた動画を見付けてしまったのだった。しかもそれは、被疑者の氏名まで添えられたものだった。
「嘘吐くなっ!」
友人のまさかの発言に、健喜は憤ったが、見せ付けられた動画に言葉を失ってしまう。
「うわ~! ヒくわ~、なにお前の父ちゃん?」
「逮捕とかありえね~」
「これでお前の人生も終わったな。オヤジが犯罪者とか、詰んだじゃん」
友人達は口々に囃し立て、健喜を嘲笑った。
だが冷静に考えてみて、本当に<友人>なら、こんなことをするだろうか? 仲間の身に突然降りかかった不幸を嘲笑うのが、<友人>と言えるのだろうか?
少なくともこの時、健喜は、今、自分の目の前でスマホを掲げて蔑みの目を向けながらゲラゲラと笑う彼らを<友人>とは思えなかった。
カーッと自分の腹の奥底から込み上げてくる激しい感情に突き動かされ、健喜は殆ど無意識のうちにスマホを掲げていた少年に、
「ふざけんなっ!!」
と叫びながら飛び掛かっていた。
だが、そんな健喜に対し、他の少年達は、
「うわっ! こいつ最悪!!」
「お前の父ちゃんが逮捕されるようなことしたのが悪いんだろ!!」
「犯罪者の子はやっぱ犯罪者だ!!」
などと叫びながら、健喜の体を掴んで地面へと引き倒し、
「犯罪者は罰しろ!」
「<社会的制裁>だ!」
「やっちまえ!」
と、地面に倒れた健喜を寄ってたかって蹴りつけたのだった。
その内の何発かが腹の柔らかいところにモロに入り、健喜は息ができなくなって体を丸めて身を守るしかできない。
一対多数で、しかも地面に倒れた者を蹴りつけるというのがどれほど危険な行為か、少年達は理解していなかった。
しかも、
「あっ! オレのスマホ!!」
健喜に動画を見せ付けた少年が、飛び掛かられた時にスマホを落としてしまって、画面が割れてしまっていた。
「どうしてくれんだよ! 壊れちまっただろ! 弁償しろよ!!」
腹を抱えてうずくまる健喜に対し、少年は怒鳴ったのだった。




