立派な親の姿
刑事被告人の言として聞けばふざけたことを言っているようにも聞こえるかもしれないが、これと似たようなことを普段から公言して憚らない者は少なくないと思われる。
『休日まで働いている自分こそが優先されるべきだ。優遇されるべきだ』
『子供を躾けられないバカな親が増えて世の中はどんどん悪くなっていく一方』
当たり前のように見かけられる言説である。
しかしそれは本当なのだろうか? 自分の言っていることに何かおかしい部分がないと本当に思わないのだろうか?
休日まで働いている自分は尊いと、周りの人間が思うのは分かるものの、本人がそれを口にするのはどうなのだろうか。自意識過剰と、他人からは思われないだろうか?
『日本を支えてる』というのも、確かに『日本を支えている多くの人間のうちの一人』かもしれないが、それを言っている者一人がいなくなったとしても日本が傾くことはないだろう。実際にはその程度の筈である。
自負を抱くことも必要だとは思われる。が、だからといってその理屈で他人を下に見るというのはどうなのだろうか? 『休日にのんびりと遊ぶ』ことを蔑む必要がどこにあるというのか?
休日にまで仕事をしているのは当人の問題であって、それを理由にことさらに優遇しなければいけない道理はないと思われる。
むしろ、
『休日にまで仕事をしなければいけなくなるのは、会社もしくは当人のマネジメント能力に重大な欠陥がある』
と言えるのではないか? それは自慢するに値するものなのだろうか?
また、以前にも触れたが、『世の中がどんどん悪くなっている』というのは、実際には単なる印象の問題であって、それを具体的に裏付ける客観的な根拠は存在しない。
ましてや、『バカな親が増えて子供を躾けられなくなったから』などという言説を立証することは現実には不可能であろう。
なぜなら、
『<バカな親>とは具体的にどのような親』で、
『<子供を躾ける>とは具体的にどのようなことを指す』のかを、論理的に説明することはできないからである。
少なくとも、<バカな親ではない親>なら、被疑者のようにトラブルを起こして逮捕されたりはしないだろう。
そう。この被疑者は、小学五年生の息子を持つ父親だったのだ。それが、幼い子供を連れてエスカレーターに乗る父親を罵りながら押し退け、その行為を見咎めた私服警官を突き飛ばし、現行犯逮捕されたのだ。
これのどこが<立派な親>の姿なのだろうか。
<優秀な人間>であるなら、このような振る舞いが立派とは言えないと理解できない筈はないと思われる。




