間倉井好羽
最初に気付いたのは、生理が来なかったからだった。判を押したみたいにそれまでは規則的に来てたのが来なかったことで嫌な予感がした。
妊娠検査薬で調べようと思ったけど金がもったいないので万引きして調達した。それで調べてみたらやっぱり『できて』た。
「うそ…、だって、今の男は薄くてできにくいって……」
そんないい加減な迷信を真に受けてしまう程、彼女は、間倉井好羽は無知で愚かな少女だった。とは言え、親がどんな人間だろうとできる時はできる。彼女の胎内に宿った命は順調に育っていた。
焦った彼女はもちろん堕胎する為に、<友人>から聞いたという産婦人科に連絡を取った。費用は術後のケアを含めて十二万円。恐らくもっと安くやってくれるところもあるだろうが、基本的には<秘密裏に>とはいかないだろう。秘密裏に行うことのリスクも含めた費用なのだと思われる。
しかし、普通の高校生が十二万もの現金をすぐに用意できる筈もない。親を頼ることもできず、彼女は友人に<カンパ>を申し込んだ。けれども、返ってきた返事は、
「ごめんね~、今、金欠なんだ」
「私も余裕なくて」
と、けんもほろろだった。誰も本気で力になるつもりなどなかったということだ。彼女達の関係は、そういうものだった。
『マジかよ…』
友人の助けを当てにできないと思った彼女は、堕胎費用も援助交際で稼ごうと考えた。どうせもう新たに妊娠する心配もない。避妊なしでと言えば相手は色を付けてくれた。けれどそうやって得た金も、堕胎費用として残しておこうと思った分も結局は散財してしまって殆ど残らなかった。困っていても助けてなどくれない付き合いだと分かっていても、彼女はそれを捨てることができなかった。友人達と遊ぶ為には金は必要だった。
それでも彼女が十二万円を用意して再び産婦人科に連絡を取ると、既に妊娠中期に差し掛かっているからということで五十万円を要求された。
「え?、だって十二万円って…!?」
彼女は抗議したが、それはあくまで妊娠初期での費用。時間が経てば経つほど費用が掛かるのは通常だった。だから五十万円という請求額も、決して異常な金額ではなかった。
『そんな…こっから更に四十万近くとか、用意できる訳ないじゃん……』
そうやって呆然としている間にも時間は過ぎ、とうとう、人工妊娠中絶のタイムリミットを過ぎてしまったのである。そうして彼女は『要らない赤ちゃん引き取ります』の文言を頼りに電話を掛けたということだ。
電話を掛けてから三十分。好羽の携帯に着信があった。『折り返しお電話いたします』と聞いていたからそれだと思った。
「それではお迎えに上がりますので、どなたにでも構いません、『家出する』と告げてください」
電話の相手は、あくまで柔らかい感じで当たり前のようにそう言ったのだった。