問題を多角的に
「なんか、矛盾に満ちてますね」
「まあな。この世なんてものはそれ自体が矛盾ってもんだろう。何しろ、最後は死ぬと分かってて生きるんだからな。こんな酷え矛盾があるか?」
「確かに。それを思うとまともに生きてるのがバカらしくなることは僕にもあります」
「俺もだよ。けどな。だからって命を蔑ろにする奴を俺は許せねえ。他人の命も、自分の命もだ。いずれ死ぬのが分かってるからこそ大事にしたいんだ。
俺は、自分が生まれてきたことをずっと恨んでた。親が俺を生んだことをずっと呪ってきた。なのに、こんな俺でも大切にしてくれる人達がいるんだ。親は俺を大切になんかしてくれなかったが、血が繋がってなくても家族にはなれる。
あそこは俺の<実家>で、あそこの連中は俺の<家族>だ。
その新しい<家族>になるかもしれない子を、俺達は今から迎えに行くんだ」
「斉藤さんがいたっていう<施設>のことですね」
「ああ。あの施設が今でも頼りにされてるってのは、残念なことだがな」
「確か、被虐待児専門の保護施設でしたっけ?」
「別に被虐待児専門ってわけじゃねえが、虐待を受けてた子供はケアが難しいからな。他所じゃ上手く対応できないような子供も積極的に受け入れるから、結果としてそうなっただけだ。普通に事故や病気で親を亡くした子供だって受け入れるんだよ。ただ、そういう子供についての保護要請は他所が先に受け入れるってだけだ」
「大変ですね」
「まあ、大変なのは事実だが、あそこの職員は、園出身のも多くて要領が分かってて、しかも園長以下全員が腹を括ってるからな。どうってこともない。あそこに預けときゃ安心だよ」
「経験者は語るってことですか?」
「そういうことだ。もし、あそこに保護されてなかったら、俺は今頃ここにはいないだろうな。ヤクザになってたか、どこぞのチンピラと喧嘩になって刺されでもして死んでただろうさ」
「斉藤さんが言うと真実味がありますね」
「ふん。それはつまり俺が刑事らしくないってことか?」
「あ、いやいやそういうことじゃなくて…!」
「分かってるよ。らしくねえのはな。だが、そういう『らしくない』っていう部分はどんなところでも必要なことだろう。何でもかんでも一つの価値観だけで凝り固まるってのは、いろいろヤバいんだ。間違った方向に転がり出しても歯止めがきかなくなる。
だからな、あの園じゃ体罰は全面的に禁止されてるが、『体罰は必要なんじゃないか?』って疑問に思うことも必要なんだ。そうすることで改めて問題を多角的に見ることができる訳だからな」




