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戒め

「自分より強い奴を殴れないのなら、自分より弱い奴も殴るな。自分が負ける筈のない弱い相手を選んで殴るような卑怯者になるな。


俺がお前をひっぱたいたりしないのも、それが理由だ。俺は、署長の息子なんか殴れない。そんなことをして刑事の仕事を失ったりしたら困る。だからお前のことも殴らない。


簡単な話だ」


「……だから斉藤さんは、容疑者が抵抗しても拳で殴ったりしないんですか?」


「ああそうだ。それに、今はそういう通達を受けてるだろ? それは別に、容疑者の人権に配慮してるからってばかりじゃないんだぜ。国家権力を背負ってる俺達自身が暴走しない為の戒めって意味もあるんだ。


拳銃の使用が厳しく制限されてるのもそうだ。無責任な連中は『とにかく射殺しろ』みたいなことを言いやがるが、その銃口が自分に向けられるかもしれねえってことを想像もしやがらん。簡単に銃を使っていいってことになったら、どんな些細なことで銃を向けられるようになるか分かったもんじゃないってことが分からねえんだろう。


警察官だって人間だ。実際に警察官が起こす事件だって毎日のように報道される。そういう奴らが簡単に銃を抜けるようになる怖さが連中には理解できないんだろうな」


「でも、銃を使えなくて危険に曝されるって場合もありますよね」


「それが『甘えてる』ってんだよ。拳銃使用についてはきちんと規定されてるだろうが。それを正しく理解してりゃ、使わなきゃいけない時には躊躇せずに使えるハズだ。確かに拳銃を使えばその使用が適切だったかどうか徹底的に調べられるが、その覚悟もなしに拳銃を使おうとすることがそもそも『甘えてる』んだということだ。


『自分の拳銃使用が適切でなかった時には罰を受ける』


拳銃使用と、それが正しい判断だったかどうかを詳しく調べられるのはセットなんだ。マスコミに叩かれることもな。それを理解しろ。そういう覚悟がない奴に拳銃を使われちゃ困るんだよ。


とにかく、<力>ってやつは自制的に使わなきゃ危険なんだ。そして、自制できない奴に<力>を使わせちゃダメなんだ。俺達が相手してる<犯罪者>ってのは、<力を自制的に使えない>奴らなんだ。警察官と犯罪者を区別するのは、そこだけだ。それができない警察官は即、犯罪者の仲間入りなんだよ」


「…なんか、そんなことばっかり考えてて疲れないすか?」


「考えるのが嫌なら、警察官なんか辞めちまえ。事件を起こす前にな。向いてねえよ」


「や、やだなあ、冗談っすよ」


「…言っていい冗談と悪い冗談があることも忘れるなよ」



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