恩の押し売り
「あいつは友人でも何でもないですよ……」
その人物は、会うなりそんなことを言い放った。実に忌々し気に。吐き捨てるように。
いかにも大人しくて人畜無害そうに見えて、実はほの暗いものを抱えてる人間だということがそれだけでも分かる男だった。
彼の名は遠藤忠尚。釈埴新三とは高校時代に交流があった人物である。しかし本人が『友人ではない』と言うのだから、まあそうなのだろう。
実は戸野上は、彼の名に覚えがあった。厳密には彼の伯父の名だが。以前、釈埴の件とは全く別件で調査をした時に証言を聞いたことのある人物だった。そちらの人物も、戸野上が話を聞いた相手のことを、この遠藤忠尚と同じように忌々し気に吐き捨てるように語ったことを覚えている。
『なんて言うか……そっくりだな』
そんなことが頭をよぎり、苦笑いを浮かべそうになるのを戸野上は噛み殺した。
こういう仕事をしているとそれこそいろんな人間に会うものだが、それでいて人間の<種類>というのはそれほど多くないのだということも感じるのが正直な印象だった。
その中でこの遠藤忠尚と彼の伯父は、いわゆる<お人好し>の部類に当たるのだろう。しかも<お人好し>の中でも、表向き自分を<良い人>と他人から見られたいが故に相手の言いなりになる傾向のあるタイプだと思われる。つまり、本心から相手を気遣う故の行いではなく、本質的にはあくまで<自分の為>なのだ。しかし目先のことしか見えていないが故に結果として不利益をこうむり、そしていつも『貧乏くじを引いた』と不満を漏らすタイプということか。
貧乏くじを引いたというよりは、自らそれを招いておきながらまったく自分に責任があるとは思わないタイプであるとも言える。自らを省みず、常に他人の所為にし、被害者意識が強いのだ。
『まあ、悪人ではないが、自主的にやったことで失敗しておきながら勝手に他人を恨むってパターンだな』
とも思う。こういうタイプの人間も非常に多い。<恩を押し売りするタイプ>とも言えるだろうか。
「あいつが参加したイベントの費用だって僕が出してやったのに、あいつからは何の見返りもなかった。あいつは他人から貰うだけ貰って何も返さない人間ですよ。最低のクズですね」
話を聞けば、割と早い段階で釈埴がそういう人間だと気付いていたにも拘らず、その後も『いいからいいから』と言いながら立て替え続けたそうである。いつか見返りがあるものだと考えて。
だが、えてして見返りを期待してやったことで当てが外れるなどというのは、本当に当たり前のようにある筈なのだ。それを知らない筈もないだろうに自分から恩を押し売りしておいて『裏切られた』と言うのだから、始末に負えないというものだろう。




