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目が覚めたら、この世はコミック!

掲載日:2017/08/15


 普通にスマホの目覚ましで起きて、いつものように布団から飛び出した。

 なんか、今日の布団は軽いぞ。

 俺は目が悪いんで、コンタクト無しじゃ何もかもぼやけている。

 一人暮らしの1Kマンション、洗面所で顔を洗い、タオルに手を伸ばす。

 顔を拭いたタオルはクシャクシャ丸めて、ランドリーバスケットへポイッ。


 俺は1日使い捨てのコンタクトを嵌めて、鏡の中の自分と目を合わせて、初めてその異変を知った。

「何だよ、こりゃ!?」

 俺の顔は漫画になっていた。

 ガーン、という効果音が鳴った。

 テレビのテロップみたいに、俺の胸高さ辺りに文字が出た。

「ガーン!」


「ヤベッ。二日酔いか? 昨夜は悪友達に無理やり飲まされたんだっけ…」

 俺はゴシゴシ瞼を擦って、もう一回鏡を見た。

「こんなの、嫌だぁっ!」

 俺の目がデカ過ぎる。

 これはもう、人間の目のデカさじゃない。

 それに不満なんだけど、劇画タッチの絵の割には線が雑で、俺の顔はデッサンが歪んでいる。


「これは夢だ!! そうだよな、夢オチなんだよ!!」

 俺は会社に行く支度も忘れて、とにかくベッドに戻った。

 そして、昼まで寝た。



 昼過ぎ。

 起きた瞬間、俺は絶望した。

 俺を囲む景色全部が、カラーだけど漫画なんだ。

 布団の線はさっきりよりも雑。

「がっひょーんんん…!」

 さっきよりも軽い効果音が鳴った。


「ヤバい。画素数落ちた感じだよ! これは夢じゃないのかぁ!?」

 俺は現実を拒否したかった。

 鏡を見たら、俺の顔はどんどんアッサリしたコミック調になっていく。

「冗談だろぉー。さっきより目がデカくなってるじゃん!」

 俺は頭を抱えた。


 俺はハッとした。

 ハッというテロップが出た。

 俺は玄関まで走って、サンダルを突っかけ、パジャマのまま外へ出た。

 廊下から、新人アシスタントが描いたみたいな、透視図の点がずれた景色が見えた。

 世界が歪んでいる。

「カヒー。カヒー」

 意味もなくカラスが飛んでいき、カラスの下にも文字が出ていた。


「おはようございます…」

 隣室のドアが開き、学生の町田さんが出て来た。

 町田さんの顔も漫画になっていた。

 何故か、町田さんは実物より可愛くなっている。

 しかも、胸がエロコミックみたいにデカ過ぎる!


「お、おはようございます…なんて言ってる場合じゃないでしょー!」

「あらー、寝坊しちゃったんですか? じゃ、急いで行かなきゃ。アハハハ…」

 町田さんがあり得ない巨乳を揺すって、漫画っぽく笑う。

 喋っている時、彼女の顔の横に吹き出しが出て、そこに台詞が書いてある。


「こんな世界は嫌だ! もう一回寝よう!」

 俺は言い終わる前に、

「待てよ。次起きて、俺の顔がもっと雑になってたらどうしよう。もっとデッサン狂ってたら。ギャグ漫画レベルの簡単な顏になってたら。…いや、どういう漫画から元に戻りやすいとか、既にそういう次元じゃないぞ…」

 と、考え直した。

 俺の住むマンションだけじゃなくて、街全体が漫画になっているのは明らかだ。

 こんな時に会社に行ってられるか。



 そこに、会社の広田先輩から電話がかかってきた。

「早く来いよ! おまえ、午後一番の会議のプレゼン、どうする気なんだ?」

 俺は先輩に怒鳴り返した。

「それどころじゃないんですよ! 世界が漫画になってるんです!」

「それがどうした! おまえ、バカじゃないのか!?」

 先輩はこの世界を当たり前みたいに受け止めていた。


「おい、漫画になったぐらいで、どうだって言うんだ? 他は何も変わってないんだぞ!」

「漫画になったら、働かなくていいんじゃないですか?」

「何言ってるんだ。漫画は誰か読み手がいるから成り立つ世界なんだ。常にスクロールされてなきゃならないんだ。止まるな!」

「何なんですか、スクロールって?」

 俺達は言い争った。


 俺は部屋に戻って、テレビを点けた。

 ちょうど、ニュースが始まった。

 エロコミック系の女子アナと、ギャグ漫画系のキャスターが登場した。

 本当に二人が画面から出てきた。

「中継でーす。会社をサボった人がいます。お話を聞いてみましょうー」


 俺はこれがリアルかどうか確かめる為に、あえて、女子アナに触れてみた。

 女子アナは俺を軽蔑した眼で見た。

 女子アナは生温かく、柔らかかった。いい匂いがした。


「次の中継に行きましょう」

 彼等がテレビの画面へ戻る時、俺もついて行った。

 俺はテレビの画面を跨ぎ、中の世界へ入った。


「あっ、危ない。面白くないと、ページを閉じられてしまいます…。漫画だから」

 女子アナが俺に言った。

 世界が急に暗くなった。

「元の世界に戻れるの?」

 俺が聞いたら、女子アナは漫画の顔を悲しそうに振り、

「二度と戻れません。連載中止になるんです。それは人生の終わりです」

 と、答えた。


「誰が俺の人生を決めるんだよ? 他人の価値観を押し付けられてたまるか。俺は俺の人生を生きてる…」

 俺が叫んでいるのに、俺の目の前の空は真っ暗になっていく。

 理不尽だ。

 本当に世界が漫画になってしまったんだ。


 パタン、と効果音がした。

 もう何も見えなくなった。


 



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