表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔心導師と愚者の話  作者: 藤一左
《禍根の瞳》編
18/42

第零話『禍根の瞳』

 無限の闇が広がっている。そんな空間に一人で居た。足元に地面は無いが、浮遊感も無い。その時点でもう、夢だと悟った。


 ただ何も無い空間を見回すと、遠くにひとつ、白い点が見えた。


 光だ。


 そう思って歩を進める。つま先が蹴るものも無いのに、身体は進む。


 いや、進んでいるのだろうか。白い点は確かに近付いているが、これが果たして前進なのか。それが疑問だった。


 だが、少し歩いて、前進などでは無いと気付いた。血管の中で虫が蠢くかのような嫌悪感に、歩く力を奪われ、俺は立ち止まる。


 白い点。光だと思っていたものは、目だった。


 身体も顔も無い。ただ、瞳だけがこちらを見ている。


 俺は後ずさった。逃げろと本能が叫ぶ。


 どうせあいつに勝てやしないのだ。戦うことさえ出来ない。


 あいつは俺の過去だ。いつぞや、小学校の教室を埋め尽くした瞳が、俺を見つめている。


 だが、逃げ出す事さえ出来なかった。


 その瞳が、暗い空間のそこかしこに現れたのだ。


 急激に増殖したそいつは、数秒の内に数え切れないほどになり、空間を埋め尽くす。


 その全てが、俺を見ている気がした。


 見るな、と、叫ぶ事さえ出来ない。


 呼吸さえも止まる。瞳しか無い空間に、血塗られた教室の風景がフラッシュバックする。黒い手が握る鋭利な鋏がチラついて、そいつが俺の心を切り裂く。


 俺を嘲笑っている気がした。


 罵声を浴びせている気もした。


 何も出来なかった無能な俺を、哀れんでいるようでもあった。


 最後に、視界を塞ぐほど大きな血走った眼が現れて、気を失うようにして、その夢は唐突に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ