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2 放課後の華

「見るなのタブーというやつかな」

 のび太がピンチのときドラえもんを頼るように、困ったら部長に頼ることにしてる。

「毎度毎度のことながら、君はめんどくさい案件に当たるのが好きだね」

「仕方ないじゃないですか」

「これはもはや運命だよ」

 西日の射す十和森高校の放課後。

 奇譚(きたん)クラブと書かれたドアの向こうに、

 留萌(るもい)テル部長がしたり顔でソファに座っていた。

 長い黒髪を左の即頭部でまとめた活動的な容姿とは対照的に、眉唾なクラブの部長を勤める青春の浪費者。

 奇譚クラブは俗称、無駄部と言われている。なぜなら、品行方正容姿端麗眉目秀麗才色兼備なテル部長が所属しているからだ。

 かくいう僕も強制的に部活に所属しなければならないという校則に従順に奇譚クラブに入部したのだからとやかく言える立場じゃないのだけど。

「禁室型だね」

 マグカップの取手を指でつまんだ部長はゆっくりと注がれたコーヒーに口をつけた。

「具体的に説明してください。僕はいま物凄く困っています」

「禁じられたことをやってしまって悲惨な目にあう、民話の類型をそう呼ぶんだ。見るなと言われれば見たくなる、心理学的にカリギュラ効果と呼ぶらしいよ」

「僕は通りがかっただけですよ」

「伽藍女史の悪魔祓いを目撃したのであれば、それは丑の刻参りと同じだよ」

「木に藁人形刺すやつですか?」

「そう。生命力が強い木に藁人形を五寸釘で突き刺すことで呪いを成就させる。ただし、他人に見られることで呪いが無効化し、術者に跳ね返る。それが丑の刻参り。エクソシストとやらは呪術師に近いものがあるんじゃないかな」

「チラ見しただけで巻き込まれるなんて理不尽ですよ」

 部長は嘆息ぎみに僕を見た。

「川を眺めてから登校するという趣味をやめたらどうだい? 無意味だからさ」

「せせらぎを聞いていると落ち着くんです」

「F分の1の揺らぎ。ロウソクの揺らぎなどは癒しの効果があるといわれてるけど、エセ科学らしいよ」

「別にいいじゃないですか。実際に癒されてるんだから」

「君に至っては川が基点となって不幸に見舞われているみたいだから、老婆心ながら忠告をね」

「習慣だから仕方ないです」

「そんなこと言ったらサラリーマンは全員タバコがやめられなくなってしまう」

 わざとらしく肩をすくめ、呆れたように僕を見る。

「橋はあの世とこの世を繋ぐ象徴だ。不可思議な事に巻き込まれるのも必然だよ」

「そうかも、しれませんね……」

「まあ、いいや。その話はやめておこう。いまは伽藍女史についてだね」

 長いまばたきを一度してから部長は続けた。

「伽藍……僧侶が修行する清浄な寺院のことだ。寺院は俗世間との境界を意味する。彼女はエクソシストと名乗ったそうだね」

「はい」

「それは酷くイビツだね」

「なんでですか?」

「伽藍は仏道。エクソシストじゃキリスト教じゃないか」

「関係あります? ただの名前ですよ」

「名前は重要だよ。名は体を表すから。それを偽るのは自分を否定するのと同じだよ。理解したかな、やまだーくん」

「死の恐怖を感じたら警戒するのも当たり前じゃないですか」

 部長は反論を無表情で受け止めた。

「悪魔を殺すのに撲殺というのはいささか驚いたけど、誰かに見られた場合、殺した相手に悪魔が憑依するとは考えがたいな」

「なんでですか?」

「それならば、彼女は悪魔祓いを誰に教わったんだい?」

 部長は目を細めて微笑んだ。

「複雑な悪魔祓いを口頭で伝えられるとは考えづらい。見学ができないのに、エクソシストになれるだなんて、そんな甘いもんなのかな」

「僕は知りませんけど……」

「今度伽藍女史に会ったら聞いておいてくれよ」

「……」

 まだ言っていなかったが、このあと伽藍と会う約束がある。

 連絡先の交換なんてしてなかったけど、生徒手帳を人質に取られたのだ。

 憂鬱になる僕を部長は半目で見つめてきた。

「それはそうと、昨日夜遅く国道で轢き逃げ事故があったらしいよ」

「突然なんですか?」

 コーヒーを飲み干したらしく、彼女は小さな息をついてから、カタンと机にマグカップを置いた。

「被害者の雑種犬は散歩中の小型犬に襲いかかるなどの犯行を繰り返し、保健所から指名手配されていた……」

「もしかして伽藍が殺した犬のこと言ってます?」

「ワンちゃんはもとから死にかけだったのかもね」

「何度も何度もスコップ叩きつけてたんで、なんにせよ性格は歪んでますよ」

「それは安楽死とも呼べる」

 猟奇的すぎる救済措置だ。



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