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第2話 俺は魔法使いを志す

 異世界に転生してから、あっという間に三年の月日が経過した。俺はすくすくと成長し、今日も元気に過ごしている。

 この三年間、いろいろなことを見聞きすることによって、この世界について理解を深めてきた。



 まずこの世界は、地球とほぼ同規模の惑星であるようだ。

 大陸は一つしか存在しない。アセルスト大陸という超大陸だけである。

 しかしその広さは、地球でいう六大陸の全てを合計しても足りないほどだ。

 地球の表面は陸が三割で海が七割ほどだったが、この世界の世界地図を見ると、陸が六割で海が四割ほどである。



 暦は聖陽暦というのが使われており、一年を三百六十日としている。つまり一年を十二等分した月は、全て三十日となる計算だ。


 エルフやドワーフ、獣人などといった亜人(デミヒューマン)はこの世界には存在しない。

 せっかく異世界に転生したのに……エルフっ娘にケモ耳っ娘がいないなんてっ!! とても残念である……。

 だが魔物は存在するようだ。

 魔物が生活する領域(テリトリー)を『魔境』と言い、その数はアセルスト大陸の何千、何万箇所にも及ぶ。

 しかし魔物というのは、自身の領域(テリトリー)を出ることは無いそうだ。これには様々な説があるが、解明には至っていない。

 まあ、中には例外もいるようだが……。



 そして俺が生まれた国――エーデルガルト帝国は、アセルスト大陸北西部に広大な国土を誇る帝政国家である。

 国の面積はこの世界で二番目に大きく、総人口は一億七千万人ほどらしい。

 その帝国の西部、レーメルン地方南西に領地を持つミルヒシュトラーセ男爵家。それが俺の実家だ。

 つまり俺は貴族であり、正式な名前はリヒト・フォン・ミルヒシュトラーセという。



 ミルヒシュトラーセ男爵領は人口十万四千人ほどで、その三分の二にあたる七万人ほどが領都ノイハイムに住んでいる。

 土地が肥沃であり農作物は帝国内でも有数の生産量を誇り、そして特産物も多い。

 また畜産業も盛んに行われており、特にこの領地で生産されている牛肉は高級品として有名だ。

 他所との交易などにより、人々の出入りが活発であるため、その人達を対象とした商売も多々ある。

 そのため、必然的に税の収入が多くなり、財政はそれなりに潤っている。



 そんな家に生まれた俺は今現在、何をしているのかというと――。



「本日より、リヒト様の家庭教師を務めさせていただくことになりました、ビアンカ・フェーベルと申します――」



 俺の家庭教師となる女性――ビアンカの自己紹介を受けているところだ。

 この家の方針で、三歳になると文字の読み書きや算術などの勉強を始めさせる。

 ビアンカはレオンハルトが三歳になった時から、この家の家庭教師として雇われているらしい。

 屋敷の中で見かけたことなら何度もあるが、こうして面と向かって話すのは初めてだ。



「――さて、自己紹介も済んだことですし、早速始めましょう。今日は文字についてお勉強していきます」



 この国――というより、この世界の言語は、世界共通でアセルスト語というものが使われている。

 転生してからここが異世界だと知るまで、名前も顔立ちも外国人の彼らが、日常的に日本語を話しているのを疑問に思っていた。

 その時は情報が不足していて判断できなかったが、転生して半年が経つ頃に、この世界の文字を始めて見てようやく結論に至った。

 彼らは日本語を話していた訳ではない。音声言語が偶然、日本語と同じだったのだ。

 そのため、聞いたり話したりする分には困らなかった。

 ただ、洋語などの単語が普通にあったりするので、アセルスト語とはおかしな言語のようだ。



「良いですか、リヒト様? アセルスト語の文字には、『アセルスト仮名』と『ヴェルト文字』があります」



 アセルスト仮名は音節文字で、一字が一音節を表す。

 字の形状はまったく異なるが、日本語の仮名と同じように“平仮名”と“片仮名”の二種類の仮名があり、「あ、い、う……」という風に、五十音の読み方も順序も日本語の仮名と同じだ。

 それに加え、濁音符、半濁音符、長音符といった字の補助記号もある。

 ヴェルト文字は約千二百字ある表語文字で、漢字のように一字ずつが一語を表し、また音読みと訓読みがある。

 これらの文字を併用して文章を表記するのだ。

 これは日本語の表記体系と類似している。

 とはいえ、文字言語は音声言語から派生するとされているので、音声言語が同じなら自然と似たような表記体系になるのかもしれない。

 ちなみに数字ほうは『アセルスト数字』というのだが、普段から我々が使っているアラビア数字と同一の形状であり、ちゃんと十進記数法だったと記しておく。



「――まずは、アセルスト仮名から覚えていきましょう」

「あの先生」

「はい、何でしょうか?」

「既にアセルスト仮名は覚えていますので、ヴェルト文字をお願いします」



 二歳になる少し前くらいから、独自に読み書きの練習をしていたので、アセルスト仮名はすでに覚えていた。

 ヴェルト文字のほうも、四百字くらいなら読み書きができる。



「なんと! 既にアセルスト仮名は覚えていると言うのですか?」

「はい、絵本などを読んで覚えました」



 この世界には、製紙技術が発達していおり、一般にも紙が普及している。

 また活版印刷や版画を用いた印刷技術もあり、平民でも比較的安く本が買えるのだ。

 家には童話や伝説が書かれた子供向けの本が大量にあり、母親のエルナは、よく俺にそれらの物語の読み聞かせを行っていた。

 絵本の時は、俺が絵を見やすいように膝の上に座らせて読み聞かせていた。その時に、絵本に付与されている文章の文字を指差すと、「それは――って読むの」と、よく教えてくれたものだ。

 それにより割と早い段階でアセルスト仮名を習得できたのである。



 しかし、ヴェルト文字は約千二百字もあるので、すぐ全部の文字を覚えるなんてことは俺にはできない。

 とはいえ、日常的に文章などに使われているヴェルト文字は、だいたい四百字程である。

 俺はその四百字を集中的に勉強して覚えたのだ。

 つまり今覚えているヴェルト文字と既に覚えたアセルスト仮名により、大抵の本なら読めるはずである。

 だから残りのヴェルト文字は、焦らず少しずつ覚えていけばいいだろう。



「そうですか。リヒト様の兄君のレオンハルト様も、私が文字の読み書きを教える前には既にアセルスト仮名を覚えていましたが……。なるほど、貴方達はとても優秀なようですね」



 俺は自分が優秀だとは思わない。前世の記憶を持ったまま転生したため、最初からそれなりの知能と知識を持っていた。つまり俺は見た目は子供、頭脳は大人状態なのである。

 だが、レオンハルトはそうではない。

 彼は子供ながらとても優秀である。頭が良く、その理解力、応用力、発想力などがずば抜けているのだ。

 それに、その才能に驕ることなく、真面目に努力している姿には好感が持てる。

 温厚で人当たりが良く社交的な性格から、領民達からの人気も高く、将来を期待されているようだ。



「アルフレート様も少しは見習って欲しいものです……」



 聞こえないように小声で呟いたつもりのようだが、俺にはバッチリ聞こえていた。

 もう一人の兄、アルフレートは勉強が嫌いだ。よくサボって町へと遊びに行き、同世代の子供達と遊んでいるようだ。

 とはいえ、別に頭が悪いわけではない。要領がいいと言うか、知恵が働くと言うか……。

 ビアンカは月に一度、教えた範囲の小テストを行うらしいのだが、アルフレートはその小テストでまずまずの点数を取っている。

 だから両親も強くは言えないようだ。

 それにしても、昔は素直で良い子だったのに……一体どうしてこうなった!?

 まあ、父親であるベルノルトは、「はっはっはっ、俺もこれくらいの時はそうだった」と楽しそうに笑っていた。

 誰に似たのかは、言わなくても分かるだろう……。



「――分かりました。では予定を変更して、ヴェルト文字を覚えていきましょう」



 そして俺の初めての授業は、何の問題もなく進んでいった――。



                   ◆



 本日の勉強が終わり昼食を食べた後、俺は書斎にきていた。

 俺の勉強は基本的に午前中だけで、午後からは自由な時間となっている。それとは逆にレオンハルトとアルフレートは、午前中が自由な時間で、午後からは勉強の時間である。

 まあ、アルフレートは今日もサボって遊びに行っているようだが……。

 と、それよりも俺が何故この書斎にきているかと言うと、魔法に関係する教本を探しに来たのだ。

 この書斎に魔法関係の教本があるのは調べが付いていた。

 今までは文字を覚えるのに集中していたため、魔法関係のことは後回しにしていた。しかし情報をまったく得てこなかった訳ではない。

 まだ二歳になったばかりの頃に、たった一つしか使えないが、この屋敷で唯一魔法が使えるベルノルトに魔法に関しての話を聞いたことがある。

 その時は、「魔法使いになりたいと思うのはいいが、リヒトにはまだ早い」と言われた。

 それには理由がある。

 魔法を使うには、体力と精神力を消耗する。そのため身体があまりに未発達すぎると、最悪、衰弱死してしまうそうだ。

 だが、俺は三歳になった。もうそろそろいいんじゃね? ――と軽く考え、少しだけ魔法を試してみることにした。



(えーっと、魔法関係の教本は……おっ! あったあった)



 魔法関係の教本は書斎の奥のほうの本棚ににあり、そこには数十冊ほど並んでいた。

 俺はその中から、『魔法の基礎知識』というタイトルの教本を取り出すとその場で読み始める。



 ――最初は魔力について書いてあった。

 魔法を使うにあたり絶対に必要となってくるのが魔力である。これがなければ魔法は使えない。



(まあ……当然のことだわな。というか、魔力とかそれに類する力を使わない魔法って、想像できないんだけど……)



 魔力は大なり小なり誰にでも備わっているようだ。

 しかし魔法を使用できるだけの魔力量を持って生まれてくる人は少なく、千人に一人ということらしい。

 千人に一人……俺が思っていたよりもかなり少ない。十人に一人くらいだと思っていた。

 それにその中の半分以上は、魔法が使用可能な必要最低限の魔力量しかなく、ベルノルトが使用した程度の魔法が数回使えるくらいのものらしい。

 また魔力量は生まれた時点でほぼ決まっている。身体の成長や魔法を何回も使用することで魔力量が増えるようだが、それは微々たるもので、魔法が使える回数が数回分増えればいいほうなのだという。

 さらに魔力量の多さは遺伝することはない。魔力量の多い両親の間に生まれた子供でも、魔力量が少なく魔法が使えないというのは、別に珍しいことではないようだ。

 


(……なんか絶望的じゃね?)



 いやいや……まだ使えないと決まった訳じゃない。

 逆に今まで魔法使いが居なかった家系から、魔力量が多い子供が生まれる可能性だってあるのだ。

 俺はポジティブな思考に切り替えて、教本の続きを読み進める――。



 次は属性について書かれていた。

 属性には『火』、『風』、『地』、『水』、『聖』、『闇』、そして『無』の七属性がある。

 前半の四属性は最もポピュラーな属性なのでイメージが持ちやすいだろう。

 聖属性は、怪我の回復やアンデッド系の魔物の浄化などを行う癒しの属性である。

 では闇属性とは何か。五感に働きかける幻術や対象を状態異常にするなどを可能とする属性が闇属性のようだ。うん……何とも悪っぽい属性だろうか。

 無属性はというと、他属性に変化させていない状態の魔力ことなので、属性には含めないという見解もあるようだ。

 それに属性には優劣があり、火属性は風属性に、風属性は地属性に、地属性は水属性に、水属性は火属性に強い。

 また火属性と地属性、風属性と水属性、そして聖属性と闇属性はお互いに相性が悪く、魔法の威力や効果が減少することから『相反属性』といわれている。



 魔法使いは通常、無属性の魔力以外に自分の魔力属性を一つ持ち、その系統の使い手とされる。

 一番多い属性は火属性で、半分以上が火属性なのだそうだ。

 その次に水属性が多く、そして地属性、風属性、聖属性という順番で続き、一番少ないのが闇属性である。

 しかし中には、二つの属性を兼ね備えた『二重属性(ダブル)』や、三つの属性兼ね備えた

三重属性(トリプル)』、さらには奇跡的に全ての属性を兼ね備えている『全属性(オール)』の魔法使いも存在する。

 あと、七属性には当てはまらない『熱』や『氷』、『樹』などの『特異属性(エクストラ)』と呼ばれる属性を持つ魔法使いも存在するようだが、教本には詳しく書かれていなかった。



(なるほど。魔法が使えるとして、まずは自分の魔力が、どの属性になるのか調べなければならないのか……)



 自分の属性を調べるには、『属性水晶』という専用の道具を使用するようだ。

 この属性水晶に手を触れて魔力を流し込むと、自分の魔力属性の色が、水晶に映し出されるという仕組みのようである。

 属性の色はそれぞれ、火属性が赤色、風属性が緑色、地属性が黄色、水属性が青色、聖属性が白色、闇属性が黒色と、とても分かりやすい。

 二重属性(ダブル)三重属性(トリプル)など、複数の属性を持つ場合は、色が混ざり合うように映し出されるようだ。

 特異属性(エクストラ)を持つ場合は、この六色以外の色が映し出されるようだが、これも教本には詳しく書かれていなかった。



(属性水晶か……。家にあるとは思うけど、何処にあるんだろう)



 エーデルガルト帝国が魔法使い育成のために、様々な支援を行っていることは知っていた。

 それにミルヒシュトラーセ男爵家はこの領地の主だ。領民達の魔法の才能を調べるため、そういった道具は帝国から支給されているのではないかと考える。

 元々魔法使いは不足しているので、何としてでも獲得したいはずだ。

 優秀な魔法使いというのは、それだけで国家の利益となるのだから。



(屋敷の倉庫にあるのかも……)



 倉庫の中には危ないから入ってはいけないと言われているので、入ったことがない。

 それは俺がまだ幼く、何かあったら――例えば物が落ちてきて下敷きなどになったら大変だから、入ってはいけないと言ったのだと思う。

 また倉庫の鍵は執事のゲーアハルトが管理している。あの執事の目を盗んで鍵をこっそりと取り、倉庫に忍び込むなんて不可能だ。



(……さて、どうしたもんかな)



 この書斎なら日中は鍵が開いているので、勝手に入ることはとても簡単だ。

 それに童子向けの物語や絵本もこの中にあるので、例え見つかったとしても「本を読みたい」と言えば何ら問題ないだろう。

 だが倉庫はそうは行かない。



(まあ、それは後で考えるか……)



 それよりも本の続きである。

 次は待ちに待った魔法について書かれていた。



(えーと、なになに? 魔法には『想像魔法』と『術式魔法』の二つがあります……か)



 頭の中でイメージした現象を、体内の魔力を使用して具象化させる魔法を『想像魔法』と言う。

 例えば、魔法で火を出したいとする。

 まずは基部となる火そのものをイメージし、次にその大きさや形状、出力、射程――それらのイメージを具象化させるのだ。

 しかし、一から魔法をイメージしていると時間が掛かってしまい、魔力の使用効率が悪くなることがある。

 そこで時間短縮のためによく行われるのが『詠唱』のようだ。

 詠唱には言霊の概念のように、その言葉自体に力がある訳ではない。では何故、詠唱なんてものを行うのか。

 それは詠唱することにより、そのイメージを連想し、魔法のイメージを補完しているのだ。

 ベルノルトは《小さき火を灯すべし》と詠唱を行っていたが、この詠唱からは、“小さい火で明かりをつける”というようなイメージが浮かんでくると思う。

 そうやって、魔法のイメージを完成させて具象化させるのだ。



 図形や文字列で図式化した魔法式に、魔力を流すことで魔法を発現させる魔法を『術式魔法』と言う。

 文字列にはアセルスト語ではなく『魔法文字』と呼ばれる特殊な文字を使うようだ。

 この術式魔法を主に使用する魔法使い達は、魔法式を描いた本や道具――『魔導書』や『魔導具』に魔力を流して魔法を使用するため、別名『魔導士』とも呼ばれている。

 またこの術式魔法は、その魔法に必要な属性や魔力量さえ流せれば、誰にでもその魔法が発動可能となるようだ。



(それにしても魔法文字か……どんな文字なんだろう?)



 俺は本棚の中から『魔法文字と魔法式』というタイトルの教本を取り出して読んでみた。

 そして――すぐに教本を閉じた。



(うん……全然分からない)



 魔法文字は今の俺ではまったく理解できないモノだった――。



                   ◆



 俺が次に本棚から取り出した教本は、『魔法の実践~初級魔法編~』というタイトルの教本だ。

 この教本には魔法を使用するにあたって、基礎中の基礎となることが書かれていた。



 魔力というのは、ヘソの少し下辺りにあり、目には見えない『魔力器』に蓄えられている。この魔力器の容量が大きいほど魔力量が多いようだ。

 しかし、これだけではそこに魔力があるというだけで、いくら魔力量が多くとも魔法は使えない。

 そこで必要となってくるのが『魔力循環』である。

 魔力循環とは、魔力器に蓄えられている魔力を『魔力経絡』と呼ばれ血管のように全身を巡っている管に流し、血液のように循環させることだ。

 これを行うことで初めて魔法が使える状態になる。

 この時、魔力を消費することは無く、魔法を具象化して初めて消費するとのことだ。



(ようは電源のONとOFFみたいなものか?)



 俺は魔力が循環している時はONの状態で、循環していない時はOFFの状態だと考える。

 最初は意識して魔力循環を行わなければ、OFFの状態からONの状態にはできないらしいが、慣れてくると無意識に常時ONの状態を維持できるようになるらしい。

 また、この魔力循環を行っていると身体能力が強化されるという。



(なるほど。以前ベルノルトが自分の身長くらいある大剣を軽々しく持っていたけど、こういうことなのか)



 よくあんな大剣が持てるなと、前々から疑問に思っていたが、ようやく納得のいく答えが見つかった。

 さらにこの魔力循環は、魔法を使用できるだけの魔力量を持っていなくとも行うことができるというのだ。

 つまり、魔力量的には魔法を具象化できないが、身体能力の強化は可能ということである。

 そのため軍隊などでは、この魔力循環の習得は必須のようだ。



(よしっ! それじゃあ、やってみるか!)



 まだ読み終わっていないが、俺は教本をパタンと閉じて、その場で坐禅を組んだ。そして教本に書いてある通りに魔力循環を試してみることにした。

 ちなみに、坐禅を組んだ理由は特にない。教本に書いてある訳でもなく、ただ何となくである。

 まずは魔力を感じることから始める。それにはヘソの少し下辺り――魔力器がある部分に意識を集中するようだ。

 集中――集中――集中――。

 始めてから十分くらいが経っただろうか、ヘソの辺りが少し温かくなってくる感覚を覚える。



(おっ! いい感じだ)



 さらに十分くらい経つと、今度は熱くなってきた。



(これが……魔力か……)



 初めて感じた魔力に感動を覚える。それに何だかとても力強い。



(もう魔力を感じるため、魔力器に意識を集中するのはいいだろう……。よし、次のステップだっ!)



 次は魔力器から魔力を練り上げて、魔力経絡を通して全身に流し循環させる作業だ。

 感じた魔力を体内で汲み上げるようにイメージしつつ、それを全身に流して循環させるイメージを頭に思い浮かべた。

 その瞬間――。



「――グォッ!?」



 全身に言葉では言い表せないほどの激痛が走った。そのあまりの激痛に意識が飛びかける。

 そして俺は暫くの間、床にのたうちまわったのだ――。



「はあ……はあ……はあ……。何だ今のは!?」



 魔力循環に失敗したのだろうか? いや、イメージはちゃんとできていたはずだ。では何故?

 俺は何か原因となる情報が書かれていないか、読んでいる途中だった教本を再び開いて続きを読み進める。



「――あったっ!」



 魔力経絡というのは、魔力を流しても滅多なことではその許容範囲を超えることはない。

 しかし、極稀にいる体内に膨大な魔力量を持つ者が魔力循環を行う時、魔力経絡の許容範囲を超える量の魔力を流してしまうことがある。

 それが激痛の原因のようだ。

 つまり俺は――。



(体内に膨大な魔力量を持っているってことか?)



 ――どうやら、そういうことらしい。

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