八話「夕飯」
窓から差し込む光も薄暗くなって来たのに気がつき、守が時計を確認する。
6時・・・そろそろ夕飯の時間である。腹の虫も、何か差し出せと唸っていた。
ランがやっているゲームはミニゲームみたいなもので、残り1時間もあればエンディングになるであろうが・・・さすがにそれまで待てなかった。
「ラン、今日はそれくらいにしておいて夕飯にしよう。」
それを聞いたランも部屋の中が薄暗くなっていることに気がつき、ゲームを中断し守の方に顔を向けた。
「そうだな。今日もカップラーメンとやらにするのか?」
「いや、今日は何か料理を作ろうと思う。簡単なのしか出来ないけどね(笑)」
「ほう、楽しみだな」
「ってことで、少し遅いけど材料の買い出しに行ってくるよ」
材料の買い物にランを付き合わせては悪いと思い、一人ベットから立ち上がる守。
が、それと同時にランもベットから腰を上げていた。
「あ・・・一人で大丈夫だよ」
「・・・お前が言ったのだろ?私と一緒にいると。それとも今は私と居たくないのか?」
そう言いすでに部屋の扉の前まで行き、出かける気のラン。
もちろん一人で行くよりはランと一緒に出かけたほうが会話もでき、楽しそうである。
「いや!全然!」
「ならば行くぞ。速く準備をしろ」
そう言われ、部屋にかけてある薄着を制服の上から羽織る。
一度財布の中身を確認し、二人は家を出た。
守の家から歩いて約10分・・・商店街についた。
いつもながら人が多く、活気に満ちあふれている。
ここの商店街は食材から雑貨・生活用品、そして電化製品からアクセサリーや衣服といったものまでありとあらゆる店が固まっている。
多分すべて見て回ったら丸一日あっても全て見て回ることは出来ないであろう。
そんな中、守は歩き慣れた道を迷い無く進んでいた。
「ん〜・・・とりあえず野菜かな、あとは鮭と・・・・」
「おい!守!あの店は何だ?」
初めての商店街で首を左右に降り続けているラン。
もしもここにラン一人だったら不審者と間違えられそうである。
とりあえず守はランが指指す店を見てみた。
その先には、キラキラと電球が光り輝く少し目立った店が立っている。
「あー。あれはカラオケハウスだね」
「何の店なんだ?」
「歌を歌う店だよ」
「・・・・・・・こちらでは歌を歌うのに金を取るのか?」
「こっちではそれが普通なんだよ(笑)」
「そうなのか・・・・。ん?あの店は何だ!?」
即座に次の店を指指すラン。
興味深そうに次から次へと質問を投げかけて来る。
それに対してまったく面倒そうな様子は見せずに、全ての質問に答えて行くのであった・・・(笑)
このようなランの質問に答えていたせいか、買い出しに1時間もかかってしまった。
帰宅後。
「またそんなにカフェオレ買ったの!?」
いつの間にか、ランがカフェオレの大量に入っているビニール袋を手にしているのを見つけた守。
「以前買ったやつは全て飲んでしまったからな。」
守が見ただけでも、昨日ランが持っていたカフェオレは軽く15本以上は有ったはずである。
それを一日で飲みきってしまったらしい。
「・・・・カフェオレ依存症?」
「・・・・・・・?よくわからないが速く料理を作ってくれ。私の腹はもう限界だ」
「ンじゃ、座って待ってて」
そう言い台所の前に立ち、腕まくりをし料理に取りかかった。
ランも守に言われた通り椅子に腰かける。
トントントントン。
慣れた手つきで食材を適度な大きさに切っていく守。
何故だかはわからないが、心地の良い音が無音空間に響いていた。
そのテンポのよい音を聞き、ランが椅子から立ち上がり守の手元をのぞき込んで来た。
「ほう。上手いものだな。」
「ん?ランが居た世界でも料理くらいあるんでしょ?」
疑問に思った守が食材を切りながらランに問いかける。
「あるにはあるが、こちらにあるような食材とは違うものだが。」
「へぇー。じゃぁランも料理とかするんだ?」
「私はそういった細かな作業は苦手でな。レイナに時々作ってはもらっていたが・・・」
「あらら(笑)残念。あっちに行ったらご馳走になろうかと思ったのに」
「それは出来ない話だな。私たちは「この世とあの世の境界線」に身を置いているのでな。会うことは無くなるだろう」
その言葉にショックを受けたのか、少しばかり表情を曇らせてしまう守。
しかし、ランにはそれを気がつかれないように笑顔で答える。
「・・・そうなんだ」
ここで食材を切り終わった守はフライパンを取り出し始める。
ランはそれを見ると元居た椅子に腰をかけた。
(何故こいつは・・・自分が殺されると言うことを笑って話せる?)
今までランが殺して来た(と、言っても「あの世へ送る行動」みたいなものである)人物達は、
願いをかなえる時などに多くの会話を交わしたこともあるが、決して「笑顔」などは見せなかった。
そして、大半は死ぬ時間になるとランに向かって
「・・・やっぱり死にたくない!」 「ば・・・化け物!来るな!」
などと言い放ち、自分を殺人者のように見てくる。
始めはその言葉に傷つき、ショックを受けることもしばしばあった。
が、それもいつの日か無くなり、感情を殺して仕事を続けて来たのである。
もちろん始めに守に言った時のように説明をし、未練があったらそれをかなえもする。
そしてラン達死神の手によってあの世に送られることに痛みはなく、さらにこの世に
「もともと存在しなかった」ことになるのである。
今までランに殺されるということを完全に受け入れ、さらに自分を殺すであろうランに向けて、純粋な笑顔を向けてくれている守に考えさせられてしまっていた。
(・・・いつものように感情を殺し、自分のやるべきことをやらなければ・・・私達はそのために・・・)
食卓に座り、顔を伏せ考えているランに守が料理を持って話しかけて来た。
「出来上がり!自信は無いけど・・・何度か作った料理だから食べれなくはないと思うよ」
その言葉に「はっ!」となり守の方向に顔を向けるラン。
見るとすでに机の上には料理が並んでいた。
きんぴら・ご飯・みそ汁・鮭の中華風炒め、とにぎやかに並ぶ料理。
自分のハシと、ランのフォークとスプーンを用意し、ランと向き合いになる位置に座る守。
「さて、食べよう!」
「あ・・・ああ。」
先ほど考えていたことを脳の隅に置き、鮭を一口ほおばる。
相手に対し、自分の考えていたことの後ろめたさから急いで頬張った一口だった。
それを守は、自分が作った料理を初めて他人に食べてもらうこともあり、ランの感想を待っていた。
「どう?」
「・・・嫌いではない」
その言葉を聞き「ほっ」とする守。
思ったのだが、どうやらランの「嫌いではない」は「好きだ」ととらえていいようだ。
「よかった。もしも料理が口に合わなかったらどうしようかと思ったよ(笑)」
そしてキンピラにフォークを伸ばすラン
「このキンピラと言うものは食べにくいな。」
さすがにそれはフォークでは食べにくいのであろう。
そう思い守は自分のハシでつかんでランの口に持っていこうと考えたが、さすがにそこまでは・・・と、思い手を止めた。
「本来ハシで食べるものだからなぁ(笑)」
守が答えても、ランは必死にキンピラと格闘をしていた。
ガタ。
「あ・・・」
ランのキンビラが入っていた器がひっくりかえる。
それを見たランは守に申し訳なさそうに
「すまない・・・」
と言い顔を伏せてしまった。
「いや。慣れてないんだから仕方がないさ。俺の分わけるよ」
そう言って自分の器の中身を半分、新しい器へ移しランの前へ。
その後こぼれたキンピラと茶碗をかたづけた。
しかし、片付け終わってもまだランはキンピラと格闘をしていた。
さすがに見かねた守も反射的に
「あー。俺が取ってやる!」
そう言いキンピラをランの口元へ。
「すまない。」
(あ・・・)
恥ずかしかることなく口元に差し出されたキンピラに食いつくラン。
その瞬間、守は自分がやったことに顔が赤くなった。
「これも嫌いではない。すまないがもう一口とってくれないか?」
「あ・・・ああ。いいよ」
どうやらランにとっては、他人が自分の口へ食べ物を運ぶと言う行為がどんな意味を持つのかわかっていないらしい。
(うーむ・・・がっかりしたほうがいいのか・・・喜ぶべきか・・・)
少し複雑な気持ちになりながらも守はキンピラをランの口元に運んだ。
次回、急展開します・・・。
そして、まったりテンポからハイペーステンポに・・・w
期待しないで待っていてください・゜・(ノД`;)・゜・