七話「同業者」 後半
ガツ!
勢いよく開けた扉と壁がぶつかる鈍い音が家に響き渡る。
身構えた状態のまま、守の部屋から目線を外さないラン。緊迫した空気が辺りを包み込んでいた。
守は突然のことで立ち尽くし、部屋の扉の前で唖然としながらランの行動を後ろから見つめていた。
「チビィィィィィィ!!!」
守の位置からは確認出来ないが、聞いたことの無い声が部屋の中から聞こえてきた。
その声の持ち主は、ランの姿を確認すると素早く動きだす。
そして・・・その人物はランを思い切り抱きしめて来たのだ。
これには流石のランも一瞬不意をつかれたのか体が固まる。
「お前か・・・レイナ・・・」
抱きついて来た人物を確認したランは、体の力がドッと抜け落ちた様子で、深いため息をついた。
その人物は抱きついたまま、満面の笑みで話し始めた。
「丁度私の担当の人がここの近くで会いに来たんだよぉ〜。戻って来ないから何かあったのかと思って心配したんだぞ。」
「・・・私は別に会わなくてもよかった。」
「またまたぁ〜。チビは素直じゃないんだからぁ〜」
ようやく落ち着いて来た守は、ランに抱きついて来た人物を確認してみる。
身長は170くらいであろうか?守より少し大きい。髪型は肩まであるセミロングでランと同じく、赤と黒が混ざったような色をしている。服装は露出度が激しく、守たちのいるこの世で言う「コスプレ」のような衣装である。顔はランのような可愛いといったようでなく美しいという表現が合いそうである。
その美しさからか近づきがたい顔立ちであるが、言葉使いからそういったことは感じられなかった。
「あの〜・・・ランさん・・・こちらはどなた・・・?」
当然の疑問をランに向かって投げつける。
何故かその言葉にレイナと呼ばれた女性が、ランを抱きながら守に顔を向け反応する。
「あ〜!君がチビの担当の人?私はランと同じで、こっちでいう死神やってるレイナって言うの。」
「あ・・・そうですか・・・。これはどうも・・・」
わけも分からずに守はペコりと挨拶した。
「それよりレイナ・・・ひとまず離せ。息苦しい。」
もぞもぞと体を揺らしながら言うラン。
レイナとの身長差もあってか、完全に顔がレイナの胸に埋まってしまっている。
「あぁ〜。ごめ〜ん」
レイナが離れるとランは一息つき、再度話しかけた。
「ふぅ・・・レイナ・・・仕事であろう?はやく担当者の元へ戻れ。」
「いいじゃ〜ん・・・少しくらい♪」
「良くない。いいから戻れ。」
ランはいつもの口調でレイナに言い放った。
とりあえず家の中に居た同業者の正体があきらかとなり、
いつもの落ち着いた表情を取り戻したランは、レイナの発言を無視し守の方向に顔を向けた。
「守、私は着替えてくるぞ。レイナには早く帰ってもらえ。」
そう言うとランは早々に守の部屋を出て行ってしまった。
ランが部屋を出るのを確認したレイナは、守の顔を座りながらジッと見つめる。
どうやら帰る気はさらさら無いらしい。
この状況で置いていかれても・・・と、思ってしまう。
「あの・・・レイナさん・・・」
さすがに見つめられているこの状況で、無言でいるのには耐えられなかった守が言葉を放った。
「ちょっと待て少年!何か言う前に自分の名前くらいは教えるもんだよぉ?」
「あ・・・はぁ・・・すみません。俺は霧島守ってもんです。」
「よろしぃ♪」
満面の笑みで答えるレイナ。すごいマイペースな人である。
いつの間にやら守のベットの上に座り、両足をばたつかせている。
「あの・・・それでランとはどういった関係で?」
「あぁ〜。さっきのやり取り聞いてて大体わかると思うけど、私とチビは同業者で結構あっちの世界で会うことが多いんだ♪」
「はぁ・・・なるほど・・・それと‘チビ‘って・・・?」
「君が言うランのことだよ♪私達は名前ってのは自分自身で決めちゃうんだ。チビは別に名前なんて要らないって言って自分で決めないから私はチビって呼んでるの♪」
「でも・・・チビって・・・よくランがそう言われて怒りませんでしたね?」
「うん。チビは止めろとは言ってたけど別に怒ってなかったと思うよ♪」
これを聞きランがどれだけ否定したかが目に浮かぶ。
レイナと呼ばれた人物の性格から見て止めろと言われても止めないであろう。
「それより・・・‘ラン‘ねぇ〜・・・君が付けてあげたの?チビの名前」
「あ・・・はい。俺と会った時も名前は無いと言っていたので。」
それを聞いたレイナは腕を組み、守を見つめ少し間をおいて答えた。
「しかし・・・よくあのチビが人間のあなたに名前をつけることを許したねぇ・・・」
「え・・・?」
「あれ?ランから聞いてないの?」
これを聞き守の頭には「?」マークが流れ込む。
「聞いてないのかぁ・・・私達はね・・・」
そう話をしようとレイナが話し始めたそのとき、守の立っている後ろの扉が勢いよく開く。
ランが戻って来たのである。
「レイナ何を話そうとしていた?無駄なことを言うと承知せんぞ?」
そう言いながらランが慌てたようにレイナに近寄る。
しかし、とうの本人はランの姿を見ると満面の笑みになりまた抱きつきに走った。
「チビー♪おかえりー♪」
そう言いながら勢いよく立ち上がり、抱きついて来たレイナを最小限の動きで避けるラン。
「む〜・・・つれないなぁ・・・(涙)」
抱きつくのに失敗した両腕をクロスさせながら、ランの方向を見て答えるレイナ。
「それよりレイナ。本当にもうそろそろ担当の者のもとへ戻れ。本来ここに来ることもあってはならぬことなのだからな。」
それを聞いたレイナはホホを膨らましランを見ながら答えた。
「むー・・・わかったよぉ。・・・むぅ・・・それじゃ・・・チビ、守君、またね〜」
少し寂しそうにそう答えるとレイナは部屋の窓の前に立ち、未練を残しているようでランと守をもう一度確認してからフワッと飛んで行った(別に羽がはえているわけでは無い)。
レイナが見えなくなるのを窓から見送ったランは守の顔に素早く身を向ける。
「守・・・お前・・・レイナに何を聞いたのだ?」
少し落ち着いたのかランは守に問いかけて来る。
それでもまだ落ち着ききっていないのか、いつもの無表情とは少し違っているように見えた。
「・・・ランが何でレイナさんからチビって呼ばれているのかってことだけだよ。」
あえてその後レイナが言おうとしていたことは話さなかった。
「そうか・・・それならいい」
そう言うといつもの表情に戻り、部屋の中で顔を左右へと振り守のカバンを見つけると、一直線にカバンに向かって行った。
「どうしたんだい?」
不思議に思い守が問いかけた時、カバンを開き中をあさっていたランの腕が止まり、顔だけ守の方向へと向けてきた。
「お前・・・私との約束を忘れるとは良い度胸だ。」
そう言い放つとカバンから取り出したゲーム機を守の顔面に突き出す。
「付き合う約束であろう?」
「ご・・・ごめん(汗)ゴタゴタしてて・・・(汗)」
「ハッ!」とした表情で答える守。
「まぁよい。その代わり気が済むまで付き合って貰うぞ。」
そう言うとベットに座っていた守の隣にチョコンと座り(と、言うか守に密着し)必死に指を動かし始めたラン。
それを見た守も、レイナが来た時の慌てた表情からいつもの表情に変わっていた。
(本当に・・・可愛いのかキツイのか・・・(笑))