七話「同業者」 前半
「まったく・・・よく寝る奴だ・・・」
ガツッ!
机に伏せていた頭に強い衝撃が走る。
「あぁ?誰だよ。」
相手を威圧する言い方で声を放ち、そして睨みつけるように声のした方向へと目線を向ける。
睨みつけた先には、腕を組み「やれやれ」といったランの表情が飛び込んで来た。
どうやらランに目覚めの鉄拳をくらったらしい。
「なんだランか・・・授業終わった?」
「とっくにな!」
ランは呆れた表情でそう答えた。
「帰ったらゲームの続きをやる約束だったであろう?はやく帰宅の準備をしろ。」
そう言われ、一時間前の小休憩の時のランとの会話を思い出した。
(そう言えば・・・約束したようなしてないような・・・)
どうやらまだ、自分の頭は覚醒しきっていないようだ。
一度大きな欠伸をし、のろのろと帰宅の準備をすませランと校門へと向かった。
帰り道、隣を歩くランにゲーム機を貸せとせがまれた。
自分で持っていないと気が済まないのだろうか?と、思いつつゲーム機を手渡した。
そして、ランは何も言わずに手渡されたゲーム機の電源を入れた。
「また出来ない所があったら教えてくれ。」
「ちょ・・・ちょっと・・・歩きながらやる気?」
やる気満々のランに驚いて答える守。
「別に構わぬであろう?」
「駄目!!歩きながらのゲームや携帯のメールはホント危険なんだぜ!?」
素早くゲーム機をつかみ取り、半分無理矢理取り上げる。
そして一度相手を睨むと、ゲーム機を自分のカバンに閉まってしまった。
するとランは「だからなんだ」と言った口調で答えて来た。
「・・・私が死ぬとでも?私達あの世の者は例外を除いてこの世で死ぬことは無い。例えいくら血を流そうと痛みを感じるだけだ。死ぬことはない。」
そう言うとまたゲーム機を渡せとばかりに手を差し伸べて来るラン。
早くしろ・・・と、言わんばかりに。
守はそれを見るといつもとは違った悲しそうな表情を浮かべた。
「・・・それでも駄目なものは駄目・・・。」
「何故だ?」
「心配だからだよ。ランが危険なことをしているのを黙って見ていることは出来ない。」
「・・・。」
苦笑いでランの顔を見下ろす守。
「ごめん。ホント勘弁して。帰ったらいくらでも付き合うからさ。」
「・・・わかった。・・・・・すまん」
もっと強請られるかと思い、絶対に渡さない態度を取ろうと思っていた守だったが、意外とあっさりと相手が引いてしまい、少し驚いてしまった。
唖然にとられた表情でランの後ろ姿を見ながら歩く。
「・・・何をしている!帰ったら存分に付き合ってもらうから覚悟しておけ!」
「ん・・・あ。はいはい」
ランが少し顔を赤らめ、守の前を早歩きになって歩きながら怒鳴る。
が、守はランの後ろに位置していたのでそれには気が付かなかったようだ。
(・・・心配?何故あいつが私の心配をするのだ?)
その後の会話は無く、早歩きのランに守が急ぎ足でついて行く形となった。
いつもよりも歩くペースが早かったためか、気が付くとすでに家の前であった。
そして二人は、守の部屋がある二階へと駆け上がった。
ランは学生服を着替えようと守の部屋を通りすぎようとした。
が、何故か守の部屋のドアの前で立ち止まってしまった。
無言でドアを見つめている。
「・・・・・・・・・・・・」
後ろにいる守に、顔だけを後ろに向けるラン。
その表情はいつもの無表情とは少し違い、何か威圧感すら感じさせる。
そして静かに口を開いた。
「・・・何故、私以外の同業者がお前の部屋にいるのだ・・・?」
「・・・へ?」
いきなりの質問に呆気にとられる守。
ランの口調、そして態度から何か異常事態が起こったことが感じられた。
静かになった廊下に、重く凍りついたような空気が流れる。
この雰囲気からして、ただごとでは無いのであろう。
それと同時に静かに腰を中腰にし、身構えるラン。臨戦態勢・・・と、言うべきだろうか?
「開けるぞ!!!」
ランの唐突で高い叫び声が家中に響く!
だが、この状況に守は何が起こっているのか理解できなかった。
そんな守を無視し、ランは素早くドアノブを回し、足でドアを蹴り開いた。
七話は少し長めだったので、前半・後半とわけて投稿します。