六話「二日目」
「・・・今日もか・・・起きろ!」
未だ眠りについている意識へと流れ込んでくる声。その声に体を少しだけ動かし反応させる。
目を半開きにして部屋を見ると、ランが部屋のカーテンを開けていた。
部屋へと入る朝の光がなんとも心地よい。
「学校に行く時間だ。」
ランが普段より少し大きめの音量で言ってくる。
「ん・・・ああ・・・」
未だに覚醒しきって無いであろう意識を無理矢理起こし、重たい体を立ち上げた。
いつものように早々と着替えをすませ、食パンを急いで一枚頬張り、寝癖を水で手っ取り早く整え玄関へ。
学校へと続く道の途中、ランはカバンからカフェオレを取り出し飲み始める。
それを見てふと不思議に思ったのだが、ランはお金を何処から調達したのだろうか・・・?
そう思い本人に聞いてみた。
「不思議に思ったんだけど、お金は何処から出てきたんだ・・・?」
「・・・さすがに私でもここ(この世)で金も無いのは困るからな。上が支給してくれているのだ。」
「なるほど・・・確かに。」
「まぁ生活に支障がない程度にだがな。」
(まさかその金でカフェオレを大量に買っているとは相手も思わないだろうなぁ・・・)
そんな話をしながら歩いていると、すでに校門前であった。
昨日と同じように、自分の席に座る守とラン。
それと同時に、聞き慣れた声が守の耳へと入る。
隣の席の 加治 宏明である。
お調子者で、体を動かすことだけが取り柄、そんな性格もあってか誰にでも気軽に話しかけて来る。
守が知っている人物の中では一番会話をしている人物だが、それでも守は
出来るだけ干渉せず、そしてこちらのことも出来るだけ相手に干渉されないようにしていた。
「ランちゃん・・・やっぱかわいいよなぁ〜。」
鼻の下を思い切り伸ばし、小声で話かけて来る。
さらに腕を守の肩に乗せ、顔を接近させ続けて喋りかけて来た。
「容姿良し。性格良し。おまけに頭の良さも文句なし!最高だよなぁ〜」
守はその言葉を聞き、「性格良し」の部分に疑問を持ち即座に反応をする。
「性格は良いとは言えないような気が・・・悪いとも言えないけど・・・」
「何を言いますか!女子からの評判もかなりいいぜ?」
そう言われ、ふとランの方向に目をやると、明らかに守と二人で居るときとは言葉使いが違っていた。
周りの女子達と普通に会話をしているラン。
表情も普段の無表情とは違っている。
普通の女の子の喋り方、そして表情・・・と、言うべきか。
完全にキャラを作っているようだ。
(ランが「この世に存在していることになっている」と言ってたけど、どうやら皆には「前から」ランは存在していて、皆と一緒に学校に通って普通に生活していた、と思いこんでいるんだろうな・・・だから昨日から突然ランが現れても皆何も驚かない・・・ってことか)
そう考えていると、再度加治が話しかけて来る。
「そういえばお前・・・ランちゃんと親戚らしいな!?どうしたん?もしかして付き合ってたりしちゃってる?」
「いや・・・そういうわけじゃないけど・・・」
守とランの関係・・・これは・・・付き合っていると言うべきだろうか・・・?
さすがに「付き合っている」とは言えなかった。
「だよな!?ホッとしたぜ。お前は俺と一緒で万年彼女無しだもんなぁ(笑)」
笑いながら冗談を言ってくる加治。
その後、ランの方向に目線をやり、さらに鼻の下を伸ばしていた。
(そう言えば俺・・・ランの事何も知らないんだよなぁ・・・)
そう思った瞬間、学校のチャイムが鳴り響いた。
「さて・・・と。ふぁぁぁ。」
授業が始まると何故こんなにも眠くなるのであろうか?
大きな欠伸をし、机に上半身を預け目を閉じる。
今日も守は、寝て午前中を過ごすのであった。
「・・・起きろ・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・起きろ!!」
机の上でビクンと上半身を反応させ、寝ぼけぎみに声の聞こえた方向を見上げる守。
自分の前には手を組み、自分を見ながら立っているランがいた。
「お前は本当によく寝るな・・・もう昼だぞ?起きろ。」
「ん・・・ああ。」
目をこすりながら、ゆっくりとイスから立ち上がると、ランの手に紙袋が有ることに気がつく。
紙袋には「購買」と書かれていた。
「あ・・・そう言えばもう校舎の構図覚えたんだっけ?俺も飯買って来るから、先行って待ってて。屋上でいいよね?」
「すでにお前の分も買って来た。はやく行くぞ。」
正直言って驚いた。まさかランが他人の物を買って来てくれるとは・・・。
出来るだけ動揺したことを隠し、ランの言葉に答えた。
「え・・・あ・・・ありがとう。んじゃ、行こう。」
「・・・・・」
何故か体が固まってしまっているラン。
「どうしたの?」
「あ・・・いや・・・なんだ・・・他人に礼を言われるのなんぞ初めてだったものでな。よし、行くか。」
やはり職業がらお礼を言われることなど無いのであろう。
早歩きで歩き出すラン。
その後ろに着いて行きつつ、少し慌てた様子で答えたランの姿に、驚きながらも少し笑ってしまう守であった。
誰もいない屋上につくと、二人は向かい合って昨日のように地面に腰を落ち着かせた。
「やっぱさ、ランのやってる仕事って、こうやってこの世で暮らすことはまったく無いの?」
ランの買って来たサンドイッチをほう張りながら言う守。
紙袋の中身はすべてサンドイッチであった。
「無いな。何千と居る同業者の中でも私が始めてだろう。」
「何千!?って・・・ことは、同じような仕事をしている人がまだ沢山いるわけ!?」
「そうだ。私たちはこの世の優秀な人材をあの世に送り、そして寿命の来た者を送るのが仕事だからな。一人では仕事にならんではないか。」
(た・・・確かに。)
「じゃぁ、その同業者の人達も、俺のすぐ近くにもしかすると居たりするわけ?」
「もちろんだ。まぁ仕事をしている間は一般人には見えないがな。私とかかわっているお前には見えるが、姿が見えないという事はこの近くには居ないのであろう。」
「そういうことね。やっぱ皆ランと同じようなの?」
「この世と同じだ。さまざまな性格の同業者がいる。男もいれば私と同じ女もいるしな。もちろんこの世で言う友達を作っている者もいる。・・・まぁ技能は皆一緒だがな。」
「技能・・・?」
「私たちの出来ること・・・だ。あの世との通信、道具の空間転移、そしてあの世との行き来だ。」
ランはここで一区切りつかせるとカフェオレを一口飲んだ。
「・・・ランは・・・何でこの仕事をやっているの・・・?」
「私は生まれついてからあの世の住人だからこの仕事しか知らないのだが・・・。まぁ、あえて言うならば・・・相手に気を使わないでいいからだ・・・。私は相手にあの世に行くかどうかを問い、イエスならば連れて行き、ノーならば何もしない。そして必要とあらば未練を解消する。これだけを淡々とこなして行けばよいのだからな。」
ランは下を向き顔を曇らせ、聞こえないくらいに小さい声で続けて言った。
「・・・それでも・・・嫌なことはあるがな・・・」
「・・・・・」
「それに・・・私達の存在理由は・・・」
会話が進むにつれ、音量がどんどんと下がって行く・・・。
守はこれ以上この内容の会話は続けなかった。
ランが顔を曇らせたのを見ていたからだ。やはり言いたくないこともあるのであろう。
未だに顔を下に向けてしまっているランを見て、無理矢理話を違う方向へと持っていくことにした。
「あ・・・そうだ!ラン、「テレビゲーム」って知ってる?」
「・・・知らん。」
「今日携帯用の持って来たからやってみなよ。絶対面白いからさ。」
そう言うと守はポケットから携帯用テレビゲームを取り出す。持って来たゲームソフトはボタンを二つと十字キーしか使わない簡単なアクションゲームだった。
電源をつけ、画面を見せながらランにやり方を教える。
画面を見せる時に、ランの顔が急接近したのに気がつき少し照れる。
が、ランはそんなことは気にせずに守の話を興味深そうに聞いていた。
「んじゃ、やってみなよ。」
そう言い本体をランに渡す。
あまりわかってない様子で無言で受け取るラン。
「む・・・ぬ・・・」
ぎこちない手つきでボタンをいじり始める。
画面内のキャラクターが動くと、プレイヤーであるランの腕も左右上下と動いていた。
その姿がなんとも可愛らしい。
が、すぐに画面にゲームオーバーの文字が浮かび上がる。
「・・・もう一度やってもいいか?」
やはり面白かったのか、それとも意地になったのかはわからないが、ランはテレビゲームに興味を持ったようである。
「いいよ(笑)」
そう言われると、ランは即座にスタートを押した。
またもぎこちない手つきである。
そして、やはり先ほどと同じところでゲームオーバーになってしまった。
「ムッ」といった表情をするラン。
それを見た守がアドバイスを出した。
「ここはこの位置でジャンプボタンを押すとクリア出来るよ。」
「・・・・・・・・もう一度やる・・・。」
少し慣れて来たのか、先ほどよりは良い手つきでボタンをいじるラン。
守のアドバイス通りの位置でボタンを押すと、難なく先へと進めた。
こつを掴んだのか1ステージをクリアする。
ふとランの顔を見ると、クリアした喜びからか笑顔になっていた。
「どう?面白いっしょ?」
「おい、守!ここはどうすればよいのだ!?」
画面を凝視しているラン。
どうやら夢中になって守の声が耳に入らなかったらしい。
守は、ランが自分のことを「お前」でなく、名前で呼んだのに気がついた。
多分本人も無意識のうちに言ったのであろうが、守にはそれが嬉しかった。
「あぁ〜・・・そこは・・・」
ランに教えながらゲームをしている内に、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
それに二人は「ハッ」と言った表情でゲームを中断させる。
「さて・・・授業という時間だな。」
スッと立ち上がり、いつもの無表情に戻りゲーム機を守に渡すラン。
気がつけば他人と「何も考えずに」こんな楽しく過ごしたのはいつぶりであろうか・・・?
そう思い、すでに立ち上がっているランの姿を座りながら見上げた。
「・・・はは・・・。」
思わず笑みがこぼれてしまった。
何故笑ってしまったのか自分でもよくわからない。
が、悪い気分では無かった。
「・・・さんきゅ」
立ち上がりながらの一言。
「・・・?なんだ、いきなり?」
「いや・・・何でもない(笑)」
「??・・・どちらかと言うと私の方が楽しませてもらったのだ。礼を言うとしたら私の方であろう?」
「だから何でもないって(笑)」
不思議そうに守の方を見るラン。
「・・・お前は変わった奴だな。・・・私はお前を殺そうとしているのだぞ?そんな奴に礼を言ったり楽しませることなんぞ普通はせんぞ?」
「気にしないでおいて。お礼を言いたかったから言っただけであって・・・(笑)」
ランの顔を見ながら笑う。
しかし、その言葉にさらに頭を横にし、不思議そうにしているラン。
が、自分の顔を見つめながら笑っている守に気が付き、背を向けてしまった。
「・・・変な奴だ・・・。はやく教室に戻るぞ!」
「はいはい(笑)」
「・・・な、何をしている!早く立て!」
「わかったって(笑)」
後ろ姿の少女を追い、教室へと戻って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自分で見直してみて・・・
長い!読みにくい!と、思ってしまいました(涙)
結構頭をひねらせて書いたのですが・・・
もっと文章能力を向上させたいです・゜・(ノД`;)・゜・