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死神ラン  作者: ひまなお
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二十二話「探し物」

 今日の「私」はいつもとは少し違っていた。

 「いつもの私」ならば、必死になりながらも下方に見える人々の輪に入ろうと必死にもがいているはず。

 だが、今回は少しばかり違って目に写る。空中へとその身を留まらせ、首から上を上下左右へと慌しく動作させ、まるで何か大切な物を探しているような行動をとっていた・・・・・・。


 (・・・・・・ああ。そうか。これは以前の夢の続きか)


 「自分を見つめるもう一人の私」は、自分が現在夢の世界に浸っていることを認識し、頭を動かし続けている自分の分身が一体何をしているのか理解しようとする。いつもならば、地上へ降りようと必死に下へと突進しているはずである。何度も、何度も、何百回も。そして、そのたんびに空中へと押し戻されながら・・・・・・。


 (・・・・・・何故今回は地上へ降りようとしないのだ?)


 そう思考を巡らしたのとほぼ同時に、私の分身は何かを見つけたかのように、少しばかりの笑みを浮かべながら地上へと降下していく。

だが、毎度見ている夢と同じく、降り立とうとした地面に位置していた人々は、表情を一切変えることなく手の平を私に翳し、空中へと押し出してしまった。


 (ふん。いつもと変わらないではないか)


 空へと押し戻されてしまった私は悲しそうな表情を浮かべ、再度首を運動させる。やはり・・・・・・何かを探すように。


 空中でキョロキョロと首を動かす、地上へと突進し戻される、またも空中でキョロキョロとしだす、またも押し戻される。

 間違いなく、「今回の私」はいつもと少し違うようだ。どうも「何か」を探しているようだ。一体何を? この世界に何を望んでいるのだ? 私は死神だぞ? 望むものなど何も無いではないか。非情に、無情に、表情を変えずに、心動かさずに、この世の者をあの世へと()る。望みなど無いはずだ。そうして何百年もやってきた。


 (・・・・・・この私は、表情豊かなのだな)


 そう。夢の中で動き回っている私は、現実の私とは比べ物にならないくらいに表情が豊かだった。慌しい首が止まると笑顔になり、その後空中へと押し戻されると泣きそうな表情を作っている。


 これが「私」か?


 いや、これは私ではない! それ以前に、こんな感情の激しいのが生と死を運ぶ人種であってはならない! 


 はやく起きろ私。目を覚まし、この映像を何処かへやってくれ!


 毎回、この夢を見るのは苦痛だった。しかし、今回はそれの比ではない。出来ることならば瞳を閉ざし、この映像を漆黒の闇にしてやりたい。

 が、夢の中ではそれも許されないらしい。私は、ただただ不快な映像見物を強要される。




 何分・・・・・・いや、何時間たっただろうか? それ以前に、夢の中に「時間」などという概念があるかわからないが・・・・・・。とにもかく、とてつもなく長く感じられていたこの不愉快な夢が終わりを迎えるようだ。世界がじわじわと光に侵食されはじめ、終わりを暗示させていた。


 (夢が・・・・・・終わる)


 安堵の息が漏れ、あと少しで光が全てを包み込むというとき、「あの腕」が現れた。

 そう、以前も夢の中の私に差し伸べてくれた腕が。


 

 (ああ、そうか。探していたのはこの腕の人物か)



 最後の最後まで、諦めることをせずに首を動かし続けていたもう一人の私は、それを見つけるやいなや満面の笑顔を浮かべ、自分へと向けられた腕へと猛スピードで突進していく。


 (届く・・・・・・!?)


 どうやら、この夢が終わるのよりも、もう一人の私がその腕を掴むのが速くなりそうだ。


 (掴める)


 と、見守る方の私が確信を持った瞬間に、腕を掴もうとした私が動きを急停止させ、左腕で自分の右手を掴んだ。不思議そうな表情を浮かべ、だらりと垂れ下がった右腕を凝視していた。


 (どうした? 何を躊躇している。お前・・・・・・いや、私が探していたのはその腕だろう?)


 もう一人の私は光が全ての世界を包み終わるのを感じたらしく、『しまった』という表情を見せ、「左腕だけ」を伸ばし、慌てて差し伸べられた腕を掴み取ろうとした。

 その後、その腕を「私」がつかめたかどうかは確認できない。それを見届ける前に、光が全てを包み込んでしまったから。



 (目が覚める・・・・・・)


 現実の私の意識覚醒が始められ、火照った体温を感じ取れる。


 (起きたら守に一言言ってやろう。そもそもあ奴のせいでこうなったのだ。・・・・・・この夢も今度見る時はいつもと何も変わらぬ「私」が見れるはずだ)

 





 そしてランは、夢の中で意識を手放した。

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