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死神ラン  作者: ひまなお
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二十一話「輪廻」

 普段とは何かが違うような雰囲気、表情、言葉使いのレイナと向かい合う形で居間の地べたへ座り込んでいる。

 自分のよく知っている陽気な姿はそこには無く、正座をし微塵も体を動かさず、重苦しい空気を体全体から発しているような感覚さえ思わせられるレイナ。

 だが、そんな雰囲気の中であっても、現状の守には目の前の人物に気を向かせることはままならなかった。

 今こうしている間にも、自分の部屋ではランが苦しんで寝込んでいるのであろう。もしかしたらまた熱が上がってさらに苦しんでいるのではないのだろうか? そのことばかりが頭の中をぐるぐると回り、落ち着いていることなど出来なかったのである。


「・・・・・・守くん」


 だが、そんな思いとは裏腹に、突然レイナは言葉を口にした。


「何ですか?」


 一時も速くランの様子を見に戻りたい。そんな思いから適当な返事を返してしまう。


「私達がどうやって生まれたか知ってる?」


「・・・・・・?」


 言葉が出なかった。あまりにも突然で、そして何を伝えようとしているのか理解が出来なかったためである。

 なんの経路も無く、ただただ唐突に意図不明な問いを投げかけられたわけだ。


「輪廻転生・・・・・・この言葉を耳にしたことはあるよね?」


 またも理解不能な質問。会話内容に繋がりが見えない。だが、それを口にするレイナの雰囲気からふざけているような気配は無い。

 いつもの守ならば、このレイナからの問に対し、相手が何を伝えたいのか一度冷静に脳内で分析し、そしてもっとも適切であろう回答を口にするのだが、とても落ち着いてなどいられない現状では頭を回転させている精神的余裕もなく、早々に会話を終わらせたいとの思いだけですぐさま言葉のキャッチボールを投げ返したのである。


「生ある者が死を迎え、その生はまた違う姿でこの世に生まれ変わる・・・・・・ですよね?」


「そう。それは君たちの間ではただの迷信、どこかの宗教の言い伝えとされているかもしれないけど、嘘じゃない。あなた達人間だけではなく、植物、動物、そして微生物までもがあの世とこの世を行き来し、永遠と輪廻を繰り返している」


「・・・・・・」


 ランと出会う以前までの守ならば、こんな狂言ともとれるような発言をまともに聞いてはいなかったであろう。しかし、『死神』などという非現実的な存在が自身の日常に関わりを持った今、単純にこの話を嘘だと取ることは出来なかった。


「もちろん、生まれ変わる時、人間だったからといって再度人間に生まれ変われるとは限らない。いえ・・・・・・さらに言うと、地球というこの星に生れ落ちるとも限らないの。生命は永遠と輪廻を繰り返す。それは生まれ変わる時に忘れてしまうだけであって、もしかしたら前世のころと何も変わってないのかもしれない」


 レイナはここまで言葉を繋ぎ、一息つくと、先ほどよりもさらに真剣な眼差しで先に続く言語を並べ始めた。


「なら、私達死神はどうやって生まれたと思う?」


 睨み付けられているような鋭い眼光を向けられ、守は声を出すことが出来なかった。

 守が自分の話に耳を向けていることを確認したのか、レイナは会話の続きを口にしだす。


「生命は死を迎え、そしてまた"この世に"生を迎える・・・・・・ならば、生きているとは言えず、死を迎えることの出来ない体を持つ私達は一体何者なのか・・・・・・考えたことは無かった?」


「いえ・・・・・・特には」


 どうやら、レイナが守に伝えようとしていることは、守とランに深く関係しているようである。

 それを悟った守は、崩しかけていた姿勢を戻し、意識をレイナへと集中する。


「これは一部のあの世の住民しか知らないことなんだけど・・・・・・私達死神と呼ばれている全員はね、ほとんどの者が『もとは人間』なの」


「?」


「もちろん、例外もいるし、生前の姿とは違う。そして、私達が自分から死神になりたいと思ったわけでもない」


「なら・・・・・・何故?」


「私達死神のほとんどは生前、『自ら生を絶った者』。そう、一番分かりやすく言うなれば、自殺者ね」


「・・・・・・何故、その人達が死神に?」


 予想外の答えに、半分戸惑いながら質問をぶつけてみた。


「それが・・・・・・わからないの」


「?」


「何故自ら生を絶った者が死神になるのか、それは私達にもわからないの・・・・・・」


 なら何故このような会話を持ち出したのか? このままでは今までの会話はまったく意味をなさない。だが、言いたいことがあるからレイナは話しているのだろう。ならばまだ続きがあるはずだ。そう考え、守は黙って続きの言葉を待った。


「でもね、一つの仮説が考えられてはいるわ。それは・・・・・・生有る者はその天から授かったであろう命を粗末にはしない、その授かり物を自ら捨てるのであればもう要らないだろう・・・・・・そういうことなのかもしれない・・・・・・」


 そんな・・・・・・そんなことが許されるのなんて・・・・・・


「あの世には・・・・・・神、なんてのも存在するのか?」


 思わず突拍子の無いことを口にしてしまった守。それを聞き、レイナは苦笑しながらさらに続きを述べた。


「わからないわ。少なくとも、私達が行き来しているあの世と呼ばれる世界には神などと呼ばれている者は居ないわ。そして、何故その私達が、生と直接関係する死神と呼ばれている所業をするのかもね」


「なら・・・・・・何故そんなことをやっているんですか?」


「それもわからないの・・・・・・でも、どうしてかあの世で自分の存在を意識できるようになってから、自分は死神をしなければならないと思ったの。なんていうのかな、本能的にそうしないといけないような気がしたの」


「・・・・・・」


「意味がわからないよね? でも、本当のことなんだ」


 言われたとおり、意味がわからない。やりたくなければしなければいい。もう一度輪廻の道へと戻る手段を考えたほうがよっぽどマシなのではないのだろうか?


「・・・・・・俺には、よくわからないです」


 こう答えるしかなかった。

 そして、レイナは今の守の答えも事前から予想していたかのように、一息つくと再度話しを続け始めた。


「だよね。でも、私達はこの世で生を絶った瞬間から死神と呼ばれる存在になったのは確かなの。自分でもわからないけど、私達は生命を扱うために生まれて来たってことが分かるんだ」


「そう・・・・・・なんですか・・・・・・」


「うん。それでね、私達が『死神として生まれ変わった時』に、体の中に今まで感じたことのないような力を感じるの。まるで、それが自分という存在を維持するためにあるかのように」


「・・・・・・」


 守は黙って続きを待った。今話されている内容が、多分自分も大いに関係しているのだろうからだ。

 レイナは少しばかり間を空け、そして述べた。


「それが、守君を含め、私達があの世へと連れて行く者の願いを適える力」


 話は急速に非現実な内容へと進まれていき、いくら守が死神という存在を認識しているとしても、信じて良いものかどうか疑ってしまうようなレベルにまでなっていた。

 しかし、多分・・・・・・これが事実なのであろう。レイナの見せる真剣な表情がそれをより濃くし、信憑性を増している。


「その力はね、4つ願いを適えるとほとんど無くなってしまう。でも、それは4つ願いを適え終わり、あの世に戻ることで何故か元の力に戻るんだ。・・・・・・それなら、もしもあの世に戻らないで、この力が無くなったら私達はどうなるんだろう・・・・・・」


「・・・・・・どうなるんですか?」


 レイナは守のこの問いに対し、重苦しく、小さく答えた。


「ごめんね。これもわからないの。でも、力が戻らなくなるということは、あの世に帰らないってことだよね? ・・・・・・そうしたら、私達は『死神』では無くなると思う。・・・・・・それなら、もしも死神でも、命ある者でもなくなったらどうなるのかな・・・・・・そう考えたことならあるよ。もしかしたら、輪廻の道から完全に外れ、消滅するのかもしれない・・・・・・」


「そんな・・・・・・」


「これは知り合いの同業者から聞いた噂なんだけどね、とある死神が担当の者・・・・・・あの世へと送る人を送らずに、一緒にこの世にとどまったことがあるらしいの。願いも適え、力もほとんど無くなってしまった状態でね」


「その死神はどうなったんだ?」


 思わず聞かずにはいれなかった。


「その知り合いの同業者の話では・・・・・・」


 レイナは一度大きく息を吸い込み、そして答えた。











「全てを失ったらしいわ」

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