二話「未練と願い」
何がおこっているのだろうか・・・?
これは夢であろうか・・・?
思い切り地面に尻を着けた自分の前には、自分に向けカマを振り上げている少女がいる・・・これを現実ととれる人間はまずいないだろう・・・
少女は無表情のままカマを振り下ろした。
守はそれを反射的に、尻餅をついている上半身だけを横に反らし、間一髪でかわす。
ガッ!と、刃物が狙いを外しコンクリートへと突き刺さる不快な音が広がる。
しかし、少女は何のためらいも見せぬまま、そのまま第二打へとカマを振り上げた。
さすがに守も、このわけのわからぬ状況と恐怖からしりもちを着いたまま必死に声をあげた。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!」
その言葉に少女はカマを振り上げたまま動作を止める。
目線を獲物から外さずに、静かにその問に答える。
「なんだ?二言は無いと言ったはずだぞ?」
その少女のはじめ会ったままの無表情にゾッとする。
あの時は別に何とも思ってなかった一言、「別に死んでもかまわない」、しかし、考えられるであろうか?
突然現れた少女が自分を殺そうと襲い掛かってくるなどということが・・・
必死になって言葉を続けようとする守。
「あ・・・あの時は冗談だと思って・・・」
「なんだ?まだこの世でやることなどお前にあるのか・・・?」
守はその少女の返答に、間髪いれずにとっさに答えた。
何か言っておかないと、会話を途切れさせたりしたら間違いなく殺される確信が有った。
「あ・・・ある!」
別にこれといった未練が思い浮かんだわけでもない。
だが、イエスと答えておかないと、そのまま彼女の手で不気味に光る刃物は間違いなく守を切り裂くであろう。
少女はそれを聞きカマを静かに下ろした。
自分に向けられた刃物がおろされ、安堵の息を漏らす守。
そして彼女は静かに声を放つ。
「・・・・・・・いいだろう・・・ならばお前のこの世に残した未練とやらを私が解消してやろう。」
「・・・え?」
「そうだな・・・お前の未練を四つだけ解消してやる。さぁ、何だ?」
またも守の脳が混乱して来る。そして軽く夢でないかホホをつねって見た。
痛い・・・夢ではないみたいだ。
その間にも、いつの間にか少女のカマは消えていた。
ひとまず冷静になった守は今の状況を整理し少女に尋ねてみる。
「ちょ・・・ちょっと待てよ!そもそもなんで俺が殺されなくちゃならないんだよ!?理由を言ってくれよ!」
その言葉に一度ため息を放ち、静かに答える少女。
「・・・未練を言えと言ったはずだが?・・・まぁいい・・・答えてやる。お前の才能を買いたいと上が言って来たのだ。・・・お前等人間は死んだ後どうなると思う?一般には天国やら地獄に行くとこの世ではされているが実際はまったく違う。あの世もこの世も同じだ。ビルが建ち、店があり、上下社会がある。そこでお前の頭脳が欲しいという奴がいてな、私が連れに来たということだ。お前は死んでもかまわないと言ったことだしな。一般的に言う「神隠し」もほとんどが私達からのスカウトによるものだ。理解したか?」
またも淡々と話す彼女に、恐怖を抱きながらも自分が殺されそうになった理由を聞き、状況を理解した守。駄目だとは思ったが一応聞いてみる。
「俺は・・・本当に殺されるのか・・・?嫌だと言っても・・・?」
さすがにこの普通ではありえない現状を見せ付けられていまさら疑いはしなかった。
いや・・・むしろ今おこっているこの状況でさえ夢なのかと思ってしまう。
「・・・あの世にはあの世のルールがある。お前は私が再確認した時に二言は無いと言った。・・・嫌だと言っても・・・だ。」
少女は表情も変えずに言った。
「まぁいい・・・お前がいう「未練」とやらを今日中に考えておけ。四つまでだがな。その時またお前の前に私は姿を現そう。」
そう彼女は言うと、またも何も無い空間に丸い穴を開け、その中に消えて行った。