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死神ラン  作者: ひまなお
18/24

十七話「感情」

目の前を騒がしく生徒達が通って行く。


空はうっすらとオレンジ色をおび、何とも綺麗な夕焼け色に染まっていた。


そんな中、ランは守が現れるのを校門に立つコンクリートで制作された学校名入りの柱へ寄りかかりながら待ち続けていた。




「んぐ・・・。遅い・・・まだかあいつは!?」




すでにここで待機し続けて1時間という時間が経とうとしていた。


6本目になるカフェオレのパックからは、ズズズズと中身が無くなり空気を口へと吸い出す音を出し、それを力一杯握りしめコンパクトに握りつぶす。


校門を通る生徒も少なくなり、学内の方向からは部活動をしていると思われる生徒達の威勢の良いかけ声だけが耳に入り込む。




「まったく。せっかく良いことを聞いたと言うのに・・・」




つい独り言がこぼれてしまった。





約3時間前・・・・




午後1時間目の授業が終了し、小休憩タイムに突入。


ふと守の方向へと目をやると、当人はいつものように机に上半身を伏せ睡眠を貪っているようだ。




(起こすのもなんだな・・・)




その考えが頭によぎり、守に喋りかけようとしていたのを断念し、次に始まる数学の教科書やノートやらを机の中から取り出し始めた。




「ランー。」




机に目を向けていると数人の女子生徒一同に喋りかけてきた。




「ねぇねぇ。霧島と喧嘩でもしたのー?なんかいつもと態度違わない?霧島。」




「いや・・・そういうわけじゃないのだ・・・ないよー。」




突然話しかけられたため、いつもの口調で会話しそうになったが慌てて訂正する。


そしていつの間にか、自分の机の周り360度は彼女たちに占拠されてしまっていた。




「そうかなー?霧島のやつ・・・ランだけには態度違ってたんだけどなー」




「そうなの?」




「そうだよー。あいつ私達が話しかけてもすんごい素っ気ないもん。まぁ誰にでもそうなんだけどねー」




(そう・・・なのか?)




少し考えてみたが、確かに守が自分以外と喋っているところをあまり見ない。


もっとも会話時間が長かったのは加治との会話くらいであろう。




「まー、喧嘩してないならいいんだけどさー。」




「うん、大丈夫。」




「そかー。一応アドバイスでも出そうと思ったんだけど心配無さそうだねー」




この言葉を聞き、少々慌てて答える。




「い・・・いや。喧嘩はしていないけど・・・一応何かあるなら教えて。」




その言葉を聞くと、数人の女子達は顔を合わせ苦笑するように口元をほんの僅かばかり動かした。


どうやら二人の間に何かあったということを悟ったようである。


が、それを本人には気がつかれぬように会話を続けた。




「そうだねー。もしも喧嘩してるなら二人きりで話して見るのが一番だよ。」




(話そうとするとどっか行ってしまうんだが・・・)




女子の一人がポケットから紙とペンを取り出し、地図のようなものをランの机の上で描いた。




「ここのお店がね、雰囲気いいし安くておいしいんだよ♪ランがいつも飲んでるカフェオレもあるしねー」




「・・・何故店に行かないといか・・・いけないの?」




「ん〜・・・何故と言われてもねー。でも二人で話し合うにはいいじゃない?きっかけと言うものが大切なのさ。まぁ行ってみなよー」




(そういうものなのか・・・?)




そう言われ、書かれた地図を見てみる。


他人と関わったことの無いランにとっては、少しのアドバイスでも聞いてみる価値はある。




「わかった・・・誘ってみる。」




その言葉を聞き、またも顔を見合わせ笑っている女子達。




「ま、がんばってね♪」




そう言い、ランの肩を一度ポンッと叩くと行ってしまった。




(放課後誘ってみるか・・・)




渡された地図を見ていると、授業開始のチャイムが鳴り響いた。






校門から見える学校正面に設置された大きな丸時計を確認すると、さらにあれから1時間が経過していた。




「・・・・遅い!!」




腕を組み、地面を片足でテンポよく鳴らす。


通り過ぎる生徒も完全に居なくなり、学内に残っているのは部活動をしている生徒だけのようだ。




「チビー♪」




突然、聞いたことのある声が聞こえてくる!


が、周りを見渡してみるが人影は無い。




「・・・・・・・・レイナか」




小さな声で、独り言になる形で言い放つ。


そして一度深いため息をつき、再度自分の周りを確認した。




「こんなところで喋りかけるな。」




自分の周りに人影が居ないことを確認し、声の主に喋りかける。




「えー。いいじゃーん♪」




その声と同時に、ランの目の前の空間がゆがみ、黒いブラックホールのようなものの中からレイナが現れた。


いつもと同じ、満面の笑みとハイテンションな声で・・・。




「こんなところで何してんのー??」




「・・・・・・」




「ねぇチビってばぁー♪」




「・・・・・・」




レイナは話しかけてきているが、ランはその言葉に答えようとはしない。




「ねぇねぇねぇねぇ」




が、それにも関わらず声を出し続けてくるレイナ。


それを見かねたランは、何度も左右に首を振り、もう一度だけ自分の周りに人影が無いことを念入りに調べた。




「・・・レイナ・・・お前は他人からは見えないかもしれないが、私の姿と声は聞こえるんだ。」




「そうだねー♪」




「・・・・そうなると他人からはどう見えるか・・・わかるな?」




「どう見えるのかなー?」




「・・・・・・・・・・」




呆れた様子でため息をつくラン。




「ねぇねぇ。そんなことよりここで何してんのー?」




「守を待っているのだ。」




「えー?でももう1時間以上待ってるよね??見てたもん」




「お前には関係ないであろう?」




「まぁ、そうなんだけどねー♪気になるじゃん?」




「別に・・・私が待っていたいから待っているだけだ。」




「・・・・・・・・・・」




このランの言葉に、笑顔がレイナから消え、真剣な表情へと代わる。


いつものレイナからは決して見られないような表情である。


そして・・・二人の周りの空気が、冷たく、重たいような空気へと代わって行く。




「ねぇ・・・チビ。守君のこと・・・別になんとも思ってないよね?」




口調もいつもとは違った・・・何か真剣みを帯びたような・・・いや、忠告するような口調で言ってきたのだ。




「なんだ?いきなり。」




「特別な感情もってないよね?」




その言葉に、少し無言になってしまうラン。


特別な感情・・・自分はそれを守に持っているのだろうか?




「いや・・・無いぞ。」




「でも・・・いつものチビなら他人の帰りを待つなんてこと・・・しないよね?」




「・・・・・・・・・・」




「それは守くんの願い?それとも・・・」




「・・・・守の願い・・・だ。」




嘘ではない。確かに守が「ランと一緒に居たい」と言うことのうちに入っていると思う。


が、実際はそれだけでは無いであろう。


だが、ランは自分の言ったことが真実である、そう思いこむことにした。


これは守の願いであって、自分からやっていることではない・・・そう思いこむことにしたのだ・・・。




「ふーん・・・。ねぇ・・・チビ」




「なんだ?」




「忘れてないよね?守くんはチビが殺すんだよ・・・?」




そう・・・今自分が校門の前で待っている人物・・・。


その人物を殺すのは自分だ。


それを忘れたわけではない。だが、その事実が頭から消え去ってしまっているときがあるのも事実だった・・・。




「・・・・・・・・・・」




何故かレイナから言われた一言に、無言になってしまった。


なんだろうか・・・この気持ちは・・・。


改めて他人から、自分が守を殺すことを確認される・・・。




「チビ・・・わかってるよね・・・?私達はそれをやるために生まれて来た存在。それを否定するなら・・・」




「わかっている!!!」




突如、ランが大声で叫ぶ。何か迷いを含んだような、そんな叫び。ぶつけどころの無い迷いをレイナへとぶつけるように。


自分でも無意識の内に出してしまった声であったが、それに気が付き、瞬時に両手で口を押さえる。


慌てて周りに人影が無いことを確認すると、レイナの方向へと顔を向けた。




「わかっているさ・・・。」




「ならいいけど・・・。」




「・・・・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・」




何故か二人とも無言となってしまった。


その無音空間から、風の音だけが辺りへと流れる。


が、それもレイナの明るい一声により瞬時にかき消されてしまった。




「んじゃ、私は行くね♪今日の夜も守くんの家に行くかもしれないけど・・・そのときはよろしくー♪」




先ほどの真剣な表情はなくなり、いつもの笑顔と口調で話してくるレイナ。


今あった会話は無かったように・・・。




「な・・・来るなと言っているだろう?」




「じゃ、そゆことでー♪」




即座に家に来ることを否定するランだが、レイナはその言葉を無視し、手を振りながら空間に作り出された黒いブラックホールのような異次元の中へと姿を消した。




またも一人になり、周りは再度静けさを取り戻していた。


風の音だけが静かに耳へと侵入を試みてくる。


そして、先ほどレイナから言われた一言が頭をよぎる。




『忘れてないよね?守くんはチビが殺すんだよ・・・?』




(・・・そうだ。あいつに特別な感情など持っていない!私は・・・)




辺りは暗くなり、灰色の雲が空を覆っていった・・・





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