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死神ラン  作者: ひまなお
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十六話「音無明菜」

時計の針も四時を指し示し、本日の全授業終了の合図であるチャイムが木霊した。

教師が教室から出て行くのとほぼ同時に、クラスメイトの面々が各々のグループに別れ教室を後にしていく。

喜怒哀楽、さまざまな表情で出て行くクラスメイト達だが、そんな彼らと違い守は机の上に設置されていた授業道具を無造作に鞄へと詰め込み、そのままそれを自分の席のサイドへとぶら下げたまま何も持たずに教室を後にしようとする。そう、音無明菜について未だ何も解決していないためである。

そのまま頭を左右に曲げ首からボキボキと鈍い音を響かせ、廊下へと一歩を踏み出そうとした。

が、それを発見したランが守へと高い声を上げて来た。


「おい。何故昼休み屋上へ来なかった?待っていたのだぞ?」


「ああ・・・用事が終わらなくてね。」


嘘をつくこともなく、本当のことを話す。


「そうか・・・ならば仕方がないな。家に帰ったらお前に聞きたいことがある。早く帰るぞ!」


守の言う『用事』について深く追求するでもなく、素直に守の言うことを信じてしまうラン。

が、その要求を受け入れることが出来るはずがない。


「悪いな。放課後も用事あるんだわ。先帰ってて。」


素っ気なく言い放ち、相手に顔を合わせることもなく休止していた両足を動かそうとする。


「む・・・ならば校門前で待っていよう。」


「いや・・・いいよ。先帰っててくれ。」


何故か顔を合わせることが出来なかった。

今、ランと面と面を向かわせ、普通の表情…いや、普段の表情を保つ自信が無かった。


「安心しろ。終わるまで待っていてやる。」


両腕を腰にやり、何故か誇らしげな態度で答えてくるラン。

が、守はその言葉に反応すること無く、ただただ無言で足を進め教室を後にした…。




二階へとたどり着くと、すでに一年三組の教室からも生徒達が和気藹々と出て行く姿が目につく。


(げ。すでに帰ってしまってる可能性が出てきたな・・・)


そう思い、素早く教室から出て来た一人の生徒を捕まえ聞いてみる。


「ねぇ。このクラスに音無 明菜って居るよね?呼んでくれないかな。」


「え・・・音無さんならもう帰っちゃったと思いますよ?」


(やはり遅かったか・・・。)


教室に残るタイプでは無さそうだと思い、望み薄で聞いてみたが『やはり』と言った結果になってしまったようだ。


「あ・・・わかった。ありがとね。」


一言だけお礼を言い、教室を後にした。




本日二度目の一〜四階へと続く階段へと腰をおろし、脳内会議により検索中の人物を発見出来そうな場所を模索してみる。


(一番確率が高いのは・・・すでに学外ってことか。でも、もしも学内と居るとしたら・・・)


腕と足を組み、さらに思考を巡らせる。


(屋上・・・かな?そう言えば朝も屋上に居たしな・・・。行ってみる価値はありそうだ。)


脳内会議の結論が提出され、相手が居なくなってしまうという状況を避けるために、すぐさま屋上へと足を運んだ。




ガチャ。


屋上の扉を開いた瞬間、外側からの力強い強風により扉が押され、素早く押されたドアが壁へと当たる。

その強い突風が守の体を揺さぶり、扉を抜ける風のヒューヒューとした轟音が耳に残る。


(う・・・今日は風が強いな。それに雲行きも怪しいし・・・)


風に押され、未だに開きっぱなしのドアを無理矢理閉め、フゥと一息つき屋上内を見渡してみる。

するとそこには一つの人影が。

その人物はフェンスに手をかけ、登下校する生徒達を見つめていた。

見覚えのある黒く長い髪が強風によってなびいている。


(ビンゴ・・・だな。)


風の音に守の足音はかき消され、相手は屋上に自分以外が居るとは気が付いて居ないようだ。


「音無。」


約1メートルほどの間隔をその人物と開け、後ろから声をかけた。

相手は不意に自分の名前が呼ばれたことに気が付き、驚いた様子で後ろを確認してきた。


「ああ・・・あなたですか。」


守の姿を確認すると、またもとの体勢に体を戻し、下校中の生徒を見始めた。


「確認しておきたいことがある。ちょっといいか?」


「拒否します。」


瞬時に予想していた答えが返って来た。

だがここで引き下がるほど守も馬鹿では無い。

音無の背中に再度話しかける。


「悪いが答えてくれるまでお前をここから出すわけには行かない。」


いつになく真剣に話す守。

話しかけた相手はその言葉に一度深いため息をつき、守の方向へと体ごと向けて来た。


「はぁ・・・なんですか?一体。」


「お前・・・ランのこと知ってるよな?何処で知ったんだ?」


「・・・自分を殺そうとしている殺人鬼の心配ですか?あなた頭狂ってるんじゃないんですか?」


朝会った時のように、馬鹿にしたような口調で答えてくる。

だが、その言葉を聞き、音無がランの正体を知っていることが確実だと言うことがわかった。

さすがに殺人鬼などという単語が出てきたことには驚いたが・・・。


「悪いが真剣な話なんだ。答えてくれ。」


「それを私があなたに教えて・・・何かメリットはあるんですか?拒否します。」


これでは一行に話が進みそうにない。

守は一度腕を組み、なんとかならないものかと思考を巡らせてみた。

そして静かに口を開く。


「なら・・・答えられる範囲で答えてくれ。」


「しつこいですね。なんですか?」


「ランの正体を知っている・・・と、なると考えられるのは主に三つだ。音無自身が死神であるか・・・それか俺の知らない死神と関わっているか・・・または俺とランの会話を聞いていたか・・・だ。」


「・・・・・・・・・」


この内容の会話にまったく動じず、そして黙って聞いているところを見るとかなりのことまで知っている様子である。『死神』などと言う単語を出され、何も反応が無いのもそれを裏付けているであろう。

実はもう一つ、ランと知り合いである、と言う可能性もあったがランの性格からしてそれは無いであろうと考え、説明を省いた。


「だが三つ目の確率は低い。普通会話を聞いても冗談だと受け取る人が大多数だからな。可能性があるとしたら俺がランと出会った場面を目撃していたと言うことになるが・・・音無も知っていると思うけど死神ってのは相当のことがないと死神に関わっている人間以外には見えないはずなんだ。」


続けて会話を進める。


「そして一つ目の可能性についてだけど・・・これも確率は低い。ランから聞いた話によると、この世で暮らすことになった死神はランが始めてだそうなんだ。もしも同時にもう一人同じような状況になった死神が居たとしても、それならば一人で学校へ通う意味がない、それに自分のことを殺人鬼だなんて言わないと思うんだよね。」


「やはり二つ目の 他の死神と関わりがある ってのが有力なんだが・・・どうなんだ?」


「・・・へぇ。思ったよりも頭は良いんですね。けれどその質問も回答は拒否します。」


守がランに何故殺されそうになったか。それはこの頭脳を買われたためだ。

本人は気が付いてすらいないが、突発的な状況判断、記憶力、観察力、理解力…どれを取っても申し分無い頭脳なのである。

さらに言うならば、常日頃から他人の心理状況を考えながら、つかず・離れずといった関係を保って来た守にとっては心理戦もお手の物である。


「なら、俺がランと一緒に行動を始めてからすでに三日目だと言うことは知っているよな?」


「そうですね。」


ここでようやく「無回答」以外の言葉を聞くことが出来た。

三日目であることを知っている・・・そうなると結構絞り込めてくる。

常人ならばランは『以前から学校に存在していた』ことになっているはずだ。

それが当てはまらないとなると、やはり何かしらの関係で『あの世』との繋がりが有るとしか思えない。


「予想はついているとは思うが、ランが俺と一緒に行動している理由は俺が出した願いごとからなんだ。」


「・・・・・・・・・・」


ここで少し間を空けてみた。

願いごと・・・と、言う単語に対しての反応を確認するためである。

が、何も反応してこないところを見ると、死神がかなえてくれる4つの願いのこともすでに知っているのであろう。


「最後に・・・俺は別に音無に何かしようってわけじゃないんだ。ただ・・・ランに危害を加えようとするなら容赦はしない。それだけだよ。」


「・・・・話はそれだけですか?」


「ああ・・・。」


「なら消えてください。」


そう言うと、音無はまたも下界へと目を向けてしまった。

それを確認すると屋上の出口へと向かう守。


(三日目であること・・・それに願いの存在も知っている・・・と、なると俺が願いで七日間と言う時間を貰ったことを知っていることもほぼ間違いないだろう・・・。やはり別の死神と一度は会ったことがあるってのが有力か・・・。しかし・・・もしも別の死神と関わっているとして、スカウトに来たのなら・・・相手がNOと答えた場合その相手は死神と関わったことを覚えているものなのだろうか・・・・?)


屋上の扉を閉め、自分の教室へと向かう守。

考えごとをしているせいか、周りのことは目に入っていない。今足下に突起物が有るのならば、容易に地面に転がることが可能であろう。


(んー・・・さすがにそれだけはランに聞いてみないとわからない・・・か。)


頭の中で整理がつき、すでに自分が教室の中に居ることに気が付いた。

荷物をまとめ、帰宅の準備を完了させる。


(そう言えば・・・今の状況でランと会話するのは・・・)


ふと再度思考を巡らせるが、これ以上このことについて考えても進展が望めないことに気がつき玄関へと足を運んだ。


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