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死神ラン  作者: ひまなお
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十一話「三日目の朝」

朝5時、

いつもより早く目が覚めてしまった守。

目を開けると、起きると必ず瞳に入ってくる一日の始まりの風景はそこにはなく、少しばかり「ここ・・・何処だ?」とも考えてしまった。


「ああ・・・そうか・・・。居間で寝たんだっけな・・・」


横になっている体をダルそうに起きあげ、無造作に跳ね上がっている髪を乗せた頭部をボリボリとかきむしる。

いつもと何も変わらない神々しい朝日が家に入り込んで来るが、それを気持ちよく肌に感じることは叶わなかった。

昨日の夜におこったことを思い出すとまたモヤモヤとした嫌な感情が頭に巡ってしまう。


「・・・・ちっ」


自分で出そうとは思わなかった舌打ちがついつい口から発せられてしまう。

思えば、ランと共に生活を始めてからまだ3日目。

そんな出会ったばかりの異性を抱こうとする自分の行為自体、どうにかしているとも思う。

が、それでもあのときのランとのやりとりが頭から離れない。


(やっぱ・・・他人に心を許すもんじゃないんだ・・・)


ランと出会うまで守は他人に対し、嫌われないように、それでいて最低限のコミュニケーションを取り、

そしてあくまで自分は他人であり、相手のことを深く考えないようにして生きてきた。


自分のことは自分でやる。他人が困っていても決して手を差しのべない。

事実、高校の学費も守が猛勉強して手に入れた、高校側からの全面バックアップで免除して貰っている。




守が何故こう考え、そしてコミュニケーションを極端に嫌うようになってしまったか・・・

それはもちろん、親の問題が一番に上げられるだろう。

父は外国で仕事をし、そして外国人の女性と不倫を楽しんでいる。

母もそれに気が付き、父とは違う男と暮らしはじめてしまっていた。

母は2〜3ヶ月に一度、父は1年に2〜3度しか家には戻っては来ないのである。

そんな中、守が小学6年生の時、母親に一つの質問を投げかけることになる。

幼いながらも薄々、両親の仲が悪いであろうことに気が付いたのだ。


「おかーさんはおとーさんのこと嫌いなの?」


その時、守の母親はすでに父の浮気には薄々感づいてはいたが、まだ別の男とは知り合うには至っていなかった。


「あの男はね、自分のことしか考えていないのさ」


まだ幼い守にはこの意味がよくわからず、続けて母親に質問をぶつける。


「おとーさんと仲良くしないの?」


この言葉に・・・今まで父親に対して溜めて来た母親のストレスが爆発してしまった・・・


「あんたがいるから別れられないんだよ!!たく・・・子供なんて産まなきゃよかったよ」


母親はこの暴言を放った瞬間我に返り、守に必死に謝った・・・・が、

守は泣きじゃくり、そして自分の部屋に閉じこもってしまった。


この言葉に幼い守は強いショックを覚えることになった。

今まで心の底から信頼してきた両親・・・

その両親から言われた一言・・・

自分は存在したらいけない存在なのだろうか?

自分は愛されていなかったのだろうか?

そう・・・まさにこの時であった。

幼い守が心に抱いたこと・・・「いくら信用している人物にも、かならず見てはいけない部分がある。そしてそれは自分を傷つける」。

それから先、守は他人とは一定の距離を保つようになったのである。




朝起きた守は台所へと足を向けた。

とりあえず顔と手についた汚れを洗い流し、そして冷蔵庫の前へ。

朝も速いので朝食を取って行こうと考えたのである。

いつもと何ら変わらない様子で冷蔵庫から卵を二つ取り出し、フライパンの上へと滑らせる。

目玉焼きが出来ると、次にパンを2つ取り出しトースターにセットする。

二つが完成に到達すると、4枚の皿へとそれらを盛りつけた。


「あ・・・二人分・・・」


無意識に未だ自分の部屋で寝ているであろう少女のことを考え、二人分用意してしまったのである。

これにより、またも彼女のことが脳裏に浮かび、頭をかかえこんでしまう。

すでに食卓へと移動された4つの皿を見つめながら思考を巡らせる。


「さすがに・・・捨てるのはもったい無いよな・・・」


そう思うと、一度は一人分処分しようとも考えたがそれを思いとどめ、

一人で食卓に着くと、一人分の朝食を胃袋へと流し込んだ。

別段すごく久しぶり・・・と、いうわけではないのだが、この二日間自分の目の前には必ず居た少女の姿が無く、一人で取る食事は何か懐かしささえ感じてしまった。


(気が付けば食べるだろう。)


そう考え、残った料理を食卓に残し、用事がすみ汚れた食器をキッチンへと運んだ。



時刻・朝6時半


そろそろランが目を覚ます時刻であろう。

守はランの顔を見るのを辛く思い、急いで仕度をすませ、速くに家を飛び出した。


朝、二日ぶりに一人で歩む学校へと続く道。

時間も早いため、まだ人通りは少なく疎らである。

しかし、いつも感じている朝の気持ちの良い清々しさを、今は感じることが出来なかった・・・。

守は考えていた少女のことを頭の隅に置くようにし、両手を目一杯左右に広げ一度深く深呼吸をした。




予想通り、学校につくと自分のクラスにまだ人影は無かった。

いつも騒がしいのに静まりかえった教室、何故かそれがひどく落ち着く。

少しばかりクラスの静けさを堪能し、自分の席に腰をかけ荷物を机へと移動させた。


(ああ・・・やっぱ一人のほうがいいな・・・)


自分の席に座り、虚ろ眼で何も書かれていない黒板を見つめながら思う守。

時刻はすでに7時半になろうとしていた。


(ランは朝食に気が付いたかな?)


ふとそう自分が考えたことに気が付き、誰もいない教室で一人頭を左右へと雑に振り回す。


(誰も俺には関係ない!俺は俺のことだけを考えていればいいんだ・・・)


思ったことを振り払うようにガタっと自分の席から立ち上がり、屋上への道を歩く。

少し風に当たろうと考えたのだった。




屋上へと到着すると、すでにそこに居る先客の一人が目に付いた。

その人物は後ろ向きに屋上からの風景を眺めているため、顔はわからないが、

身長は170センチ前後・・・真っ黒で少しワイルドな長い髪が印象的な女生徒である。


その女性とは反対側の位置から風景を眺める守。

どうやら女性は守が屋上に入り込んだことには気が付いていないようだ。

両腕をフェンスに乗せ、前屈みになる形で景色を見つめる守。


「はぁ・・・」


ため息だけしか出てこない・・・。

それが何を意味するため息なのか・・・それすらもわからないが口から流れて来てしまう。


(そう言えば最近・・・煙草吸ってないな・・・)


ランに会う以前はストレス発散のために吸っていた煙草。

気にも止めていなかったがこの二日間・・・一本分の煙も肺へと入れてはいなかった。

そうしている間に時は無情に過ぎ、気が付くと予鈴の5分前に・・・



唐突に・・・


「あら・・・あなた・・・」


後ろから女の声が聞こえた。


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