九話「ギター」
食事も終わり、一人キッチンへと立ち食器を洗う守。
キッチンと食事をする机がすぐ隣に設置されているため、洗っているときは未だ食卓に座るランに背を向ける形となる。
その机では、ランが一言も喋らずに一人黙々とカフェオレを口へと流し続けていた。
「守。私は風呂に入ってくるぞ。」
二人とも自分のことに集中していたため無言であったが、ランがカフェオレを飲み終え口を開く。
「あいよー」
食器を洗う手を止めずに、そして手元の食器から目線を放さずに一言だけ相手へ返事をした。
ランが椅子から立ち上がる音が聞こえ、そして洗面所へと向かう足音が続けさまに耳へと入って来る。
それも自分と距離が離れて行くにつれ聞こえなくなり、守は一人台所に取り残された。
一人きりの空間になったこともあり、食器を手早く洗いながらも考え事をしてみる。
(なんで俺は・・・こんなにもランに対し好意を抱いているのだろうか・・・?)
守自身よく考えたらその理由が見つからなかったのである。
ランは素直でなく、時に自分の考えと逆のことを言うこともしばしばある・・・が、
態度がわかりやすすぎて相手にバレバレなのだ。
(あれだと隠し事とか出来ないだろうなぁ〜(笑))
一人なのにも関わらず苦笑してしまう守。
最近気がついたことなのだが、ランは結構他者である自分のことを考えてくれている部分もある。
あの性格から、他人のことなど放っておきそうなイメージを抱いてしまうが、一緒に行動しているうちにわかった事実。
そういった態度や性格が、自分がランに対し好意をいだける所だろうか?
(う〜ん・・・)
自分自身のことに迷ってしまった。
守自身も気がついていないのだろうが、彼はランのことが異性として「好き」なのである。
が、他者を・・・ましてや異性を「好きになる」ことなど今まで経験の無い守にはそれがわからなかった。
数分後、全ての食器が洗浄し終わる。
そのついでにお茶を入れ、居間へと足を運ぶ。
居間につくとテーブルにお茶を置き、カーペットの上へと腰をかけた。
テーブルに無造作に置いてあるリモコンを取ると、丁度正面にあるテレビに向かいボタンを押した。
・・・・・・・・20分後
「守、上がったぞ!お湯を入れておいたのでお前も入れ。」
姿の見えないランの声がテレビの音と共に伝わって来た。
「ああ、さんきゅー!ンじゃ、すぐ入るわー」
声のした方向へと顔をやり、守もランに聞こえるように声を返す。
テレビを消し、湯飲みを片付け洗面所へと向かう。
洗面所へと到着すると、万が一ランがまだ居ることを考えノックをし、その後に脱衣所に入った。
・・・・
・・・・・・・・
(ふぅ。いいお湯だったな。)
ランが使った浴室に入り、少々気持ちが高ぶってしまったことは言うまでもない(笑)
風呂から上がり、用意しておいた寝間着に着替え自分の部屋へ。
ガチャ。
自分の部屋の扉を開けると・・・・
「・・・・・・・・。」
ガチャ。
部屋へは入らずドアを閉めてしまった。
そして息を整え、自分の頭を最大限クリーンにし、もう一度ドアを押し出してみる。
ガチャ。
「どうした?入って来ないのか?」
ランは守のベットに腰をかけ、平然と守に話しかけて来た。
一番始めにドアを開いたときと何も代わりはない。どうやら自分の頭は幻覚を見てはいなかったらしい。
・・・別にこれといって不自然なところはない。
・・・ランの姿がパーカーと下着だけ・・・と、言うことを抜かせば。
これには守も言葉を失ってしまった。
突如、「はっ!」と我に返り視線をランから背ける。
「ラ・・・ランさん!?その格好は?」
体を壁に向け問いかける。
その守の後ろ姿を見ながら不思議そうにランは答えた。
「何か問題でもあるのか?」
「いや・・・まぁ・・・自分も一応男なので・・・」
「?」
今思うとランが男である守の部屋に、違和感なく居るだけでも異常なのである。
それでさらにあのような姿をされたら・・・
「あのですね。こっちの世界では異性と居るときは上下着用してもらわないと・・・」
「そうなのか?」
「そうなんです!!!!!」
「むぅ・・・」
そう言うとランはしぶしぶとズボンをはき始める。
ランがズボンをはいたであろう音を確認するとようやく、守は壁に向けていた体を正面へと向けることが出来た。何故か安堵の息が漏れる。
ランはズボンをはいた姿で、先ほどと同じくベットの上に腰をかけていた。
ようやく落ち着いて部屋の中へ完全に体を入れることが出来るのであった・・・。
「そう言えば・・・聞きたかったのだがこれはなんだ?」
着替え終わったランが、守の部屋に立てかけてあるものを、何事も無かったかのように指さし口を開いてきた。
いきなりの質問だったが先ほどのランの姿を脳内から無理矢理排除し、落ち着いて答えることに努力した。
「あ・・・ああ、趣味でやってるんだ。」
なんとか平常心を装い答えることに成功。
「・・・それをどのようなことに使用するのか聞いてるのだが。」
「ん〜。どうせだからやって見せるよ。」
そう言うと守はランが指摘してきた物を手に取る。
そして守は、ランと向き合う形になるように勉強机の椅子を移動させ座った。
足を組み、手に取った物を太ももへと移動し抱え込んだ。
ジャィィーン。
手に取った「それ」が爽快な音を上げた。
ギターである。
手になじんだ愛用楽器を、慣れた手つきで数秒試し引きし、音の誤差を調節し始める。
ジャイーン。ジャジャガイーン。
・・・・・・・
「調節はこんなもんかな。・・・何かリクエストある?」
「それで音楽を奏でるのだな?」
「そういうこと(笑)」
それを聞き、少しばかりベットから身をのりだし興味津々に守の手にしているギターを眺めるラン。
「しかし・・・悪いが私はこちらの曲を知らないのでな。お前に任せるので弾いてみてくれ。」
「OK。それじゃぁ・・・」
そう言うと守は2年前に流行った自分の好きな曲を弾き始めた。
独学だが守のギターの腕前は相当のものである。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
ジャジャァーン!
曲が終わる。
「上手いものだな。」
演奏中、目を放さずに見つめていたランが声をかけてきた。
初めてギターの演奏を聞いたランにも守が上手いと言うことだけはわかった様子。
「まぁ、結構練習したからね(笑)」
そう言い、おもむろに違う曲のサビなどを繰り返し弾き始める守。
「これで食っていけたら・・・なんて考えてさ。必死に練習したんだぜ?」
ギターをいじりながら喋る。
「・・・諦めたのか?」
「・・・いや・・・そういうわけじゃないよ。」
少し悲しそうに答える守。
確かに守はギターを演奏するのが好きで暇があると練習をしていた。
しかし、自分が後6日で死ぬことがわかっているのだから、これ以上続けても意味がないと思ったのだ。
それでもやはり演奏するのは楽しい。ランと出会ってから初めて演奏をしたが、改めて自分がギターを好きだということに気がつかされる。
「・・・そうだ!ランも弾いてみるかい?」
考えていたネガティブ思考を取り払い、ランに言葉をかける。
演奏していた腕を止め、ランの前にギターを差し出してみた。
何となくだがランがギターに触りたそうにしているのに気が付いたからだ。
「いいのか?」
「ああ。」
椅子から腰を上げ、ベットに座るランの隣に座る。
第3者から見ると完全に恋人同士の光景・・・。
とりあえず守は単音の出し方だけをランに教えた。
ランはそれを真面目に聞き、さっそくピックを手にとり音を鳴らしてみる。
ビォーン
あきらかに初心者が出したであろう音が部屋に反響する。
「お・・・おお!?」
自分の出した音に思わず身を後ろへと反らすラン。
その姿はまるで、子供が初めて触るおもちゃを扱うようであった。
ビオーン デローン
その後も興味深そうにギターを鳴らすラン。
「その音は中指で弦を押さえて・・・」
「こうか?」
「そうそう。」
守の言うことを真剣に聞きながらギターをいじる。
ぎこちない音が部屋へとこだまする。が、何故かその音に嫌悪感は感じなかった。
ギターの説明をしているせいか、ランとの会話に夢中になっているかはわからないが・・・守は自分が妙に居心地の良いことに気がつかなかった。
その後、楽しそうではあったがギターに悪戦苦闘するランの姿に少しばかり笑みを浮かべ、時間を忘れて二人で会話を交わした。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
いつの間にか、2時間も二人はギターをいじっていた。
ふと気がつくと時計は深夜1時を指している。
「もうこんな時間かぁ。」
「ん?そうだな。今日はそろそろ休むとするか。」
そう答え、ギターを隣に居る守に手渡すラン。
守はベットから立ち上がり、ギターを元あった場所へと立てかける。
「ん・・・ん〜」
長時間座っていたため両手を上に上げ「伸び」をする守。
それと同時にアクビが思わず飛び出してしまう。
目をこすりながら再度、ランの方向へと体を向けた。
「さて、寝るとしよう。」
「・・・・・・・え?」
ランは当然のように守のベットで寝ようとしていた。
それを見た守が即ざま反応する。
「ちょ・・・ちょっとまって!昨日はランが寝てしまったから仕方がなかったけど・・・
今日もここで寝る気!?」
本日2回目の仰天である。またも慌て出す守。
それを見てもランはまったく表情を変えなかった。
「なんだ?一緒に居たいと言う願いはお前が言ったのであろう?」
「いや・・・そうだけど・・・。男女が一つのベットと言うのは・・・」
「・・・・お前は嫌なのか?」
「嫌ではないさ。でも・・・俺はランのことを女と見てるわけであって・・・そんで俺は男なわけで・・・」
「何か問題でもあるのか?」
「いや・・・まぁ俺が我慢すれば・・・理性って言葉を考えるようにすれば・・・」
「・・・・?」
「なんていうか生物学的にこれはあれなわけで・・・いやでも・・・」
自分でも何を言っているかわからなくなって来た守。
「・・・・・・・」
小さくパニックになり立ちつくしている守を、ベットの上からジッと見つめるラン。
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
無言で流れる時・・・。
そして時間にして約10秒ほどたった時・・・その空間を切り裂くように、ランから返ってきた言葉は・・・
「おまえが私を襲うかもしれない・・・と?」
えー・・・あまり言いたくありませんが、この小説は全年齢対象です。よって、危ない方向へは進みませんのでご了承ください。