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死神ラン  作者: ひまなお
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一話「出会い」

今日も普段と何も変わらない一日・・・・・・別に何か心躍ることも、気分が沈んでしまうわけでもなく、何も無い一日・・・・・・

 「何も無い一日」と、言っても脳内ではつねに悩み事を考えてしまう。将来のこと、友達・親関係、金銭のこと・・・・・・全て考えたら頭がパンクしそうである。それが人間というものなのだろうか?


 そんな悲観に満ちた思考をめぐらせつつ、霧島(キリシマ (マモルは普段と同じくし、放課後自らの通う高校の屋上へと足を運んだ。

 目的地へと到着すると、前傾姿勢でフェンスに寄りかかり、住み慣れた町並みを一見する。

 その後自分の周囲を見渡し、この場に己以外の何者も存在していないことを確認すると、ズボンのポケットからタバコを躊躇なく取り出し火を付けた。(法律違反です)

 うつろとした視線で下界を見渡しながら、吸い上げた煙を盛大に吐き出し、己の思考に一段落をつける。

 放課後という微妙な時間帯も重なり、ここから見える風景はうっすらとオレンジ色を帯びた町並みが広がっている。

 何もかも飲み込んでくれそうなオレンジ、それが好きだった。


 彼、霧島 守の家庭は父、母、守の三人家族である。

 たまに家に帰ったかと思えば、浮気相手である愛人と関係が上手くいっていないためか、親が実の子に言うことでは無いであろう言葉を飛ばしてくる父、そして母親はそれを長きに渡り目にし「あんな人になるんじゃないよ?」と、息子に平然と言ってのける。

 こんな環境でつい興味をしめしたタバコで、半ば無理矢理精神状態を安定させてしまったのである。

 「他人には一線を引いて接すること」、これが彼の心情であった。


 タバコが元の長さの三分の一に差し掛かったところで、吸い殻をコンクリートで構築された地面へと投げ捨て、足裏で踏みにじるように火を消し、街を見渡し再度思考の世界へ。いっそのこと、この無駄なことばかりを廻らせ続ける不愉快な自分の思考が止まってしまえばいいとも思った。

 何てことはない、いつも考えてしまう他人のこと、普段の生活のこと、親のこと、そして自身のこと・・・・・・。

 それら全てに共通するのが何かしらの「悩みである」と、言うことだ。ただ、それだけのこと。


 何もしていないのにも関わらず、アレコレと考えてしまい最後にはそれすらも面倒臭くなってしまう。

 いつものパターンだった。


「つまらない・・・・・・生きていて何かいいことが有るのだろうか・・・・・・こんなに悩んで苦しんでくくらいならいっそ死んだほうが・・・・・・」


 誰もいないのはわかっていたのだがつい独り言をボソっと言っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ならば死んでくれんか?」


 唐突に、低いとも高いとも言えないような不思議な二重和音で奏でられた声が脳に響いた。

 自分の声ではない、そして覚えのある声でもない、まったく新しい声が突如聞こえて来た。

 先ほど屋上を見渡した時は確かに誰もいなかったはずだ。


 さすがに驚きを隠せず、フェンスによりかかったままの体が、一瞬ビクンと痙攣したようになる。

 咄嗟にどこからか聞こえたその声の主をこの目で確かめようと、もう一度あたりを見渡す。


「・・・・・・」


 やはり誰もいないようだ。空耳だったのだろうか?


「どうだ? それなりの報酬は与えるぞ?」


 やはり気のせいではない! 確かに背後に何者かが存在している!

 今度は先ほどより勢いよく、首から上だけを後ろに振り向かせると、先ほどまでは確かに誰もいなかった屋上に一人の少女が両足を地に着けていた。


 慌てて瞳を大きく見開き、そこに存在する人物を凝視してしまった。


 黒と赤が混じったような色をしている長い髪、肌は透き通るように白く、大きめで僅かにつり上がっている瞳、長く鋭い睫毛がさらにそれを強く印象づけている。

鼻と口も整った形をしており、唇はうっすらとピンク色の光を放っているようにも感じ取れた。

そして真っ黒な全身を覆ったマントのような服装・・・・・・それらが第一印象だった。

同じ学校の生徒・・・・・・とは言えないような格好をしている。いや、それ以前にこのような美少女がうちの学園に存在しただろうか? または何か自分の知らない部活動の生徒だろうか?

 自分の慌てた様子を相手に悟られぬように努め、冷静に心を落ち着かせ目の前にいる少女に言葉を返した。


「誰? てか、タバコのこと内緒な。バレると後が面倒だから」


 守は彼女の言ったことに耳を貸さずに、まずバレると厄介なことになると思った手に持つ煙草の口止め要求を提示した。

 その守の返答に微動だにせず、そして無表情のまま彼女は言い放った。


「そんな事は私にはどうだっていい。重要なのは先ほどお前が言った「死んだほうがいい」という言葉。これに二言は無いな?」


 いきなりの問いであり、彼女が何を自分に伝えたいのかよくわからなかったが、守は目の前の女性に一応返事を返す。


「ああ、別にないよ。ただ苦しんで死ぬのは嫌かな。はは・・・・・・」


 もちろん冗談半分に答える。


「そうか。ならば苦しまずに死ぬるのならばいいのだな。お前の魂には価値がある。戦国の世に生まれたのであれば策士として活躍していただろうにな」


 何を意図しているのか、説明も無いのであるからますます意味がわからない。


「何でもいいけど用が無いならどっか行ってくれないか?」


「ああ・・・・・・行くさ。お前と共に」


 そう言うと彼女は、何も無い空間からブラックホールのような穴を作りだした! それはまるで、何かのアニメや漫画でしか拝めないような異形な穴。モヤモヤとした漆黒の影で構築されたような異次元とも言い表すことの可能である穴に彼女は腕を躊躇なく突っ込み、これまた何処かのテレビ番組でしか見たことのないような少女の背の丈ほどもある不気味に輝きを放つ巨大な大鎌を取り出して見せた。

 さすがにこの「普通ではありえない」現状に体が固まってしまい、驚きを隠すことが出来ない。

 鋭く、それでいて鈍い光を放つ彼女の持つ刃物がよりいっそう現実味を薄くしている。


「な・・・・・・!?」


「先ほど二言は無いと言ったであろう?」


 そう言うと彼女は無表情のまま、守に対してカマを振り上げた。

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